2014 Fiscal Year Research-status Report
タイトジャンクションを標的としたアスピリン起因性小腸粘膜傷害の予防・治療薬の開発
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26860060
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Research Institution | Kyoto Prefectural University of Medicine |
Principal Investigator |
福居 顕文 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60725307)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 低用量アスピリン / 小腸粘膜傷害 / タイトジャンクション / 酸化ストレス / ミトコンドリア |
Outline of Annual Research Achievements |
低用量アスピリンは、脳・心血管イベントに対する二次予防が確認され、広く使用される薬剤であるが、近年、アスピリンは胃だけでなく、小腸粘膜傷害を引き起こすことが明らかになり、その機序解明ならびに予防薬の確立は急務である。我々は、これまでに、アスピリン起因性小腸粘膜傷害の初段階とされる上皮細胞の透過性亢進に関与する上皮細胞間タイトジャンクション構成蛋白質をZO-1蛋白質と同定し、また、低濃度アスピリンが小腸上皮細胞内に酸化ストレスを引き起こすことを見出している。酸化ストレスにより修飾された蛋白質を標的としたアスピリン起因性小腸粘膜傷害予防・治療薬の開発を目指すべく、1.ミトコンドリア機能解析、2.タイトジャンクション解析に焦点を絞り、本研究を立案した。 平成26年度は、アスピリンによる1.小腸上皮細胞内のミトコンドリア機能障害を介した酸化ストレス産生、2.上皮細胞の透過性亢進について検討を行った。具体的には、ヒト大腸上皮癌培養細胞株Caco-2細胞 を分化させ、小腸上皮細胞モデルとして用い、1.アスピリン添加により生じる酸化ストレスを、酸化ストレス反応性蛍光色素を用い、ミトコンドリア選択性蛍光色素と共染色し、共焦点顕微鏡で細胞内局在の評価を行った。また、蛍光強度計で経時的な蛍光強度の変化を定量し、ミトコンドリア依存性の上皮細胞内酸化ストレスの検討を行った。2.アスピリンを、0.4μm の多孔を有するメンブレン上に培養したCaco-2に添加し、transepithelial electrical resistance(TEER) とFITC 標識デキストランを用い、透過性を測定した。 その結果、アスピリンは1.小腸上皮細胞内のミトコンドリア機能障害を介した酸化ストレス(スーパーオキサイド)産生亢進、2.小腸上皮細胞間の透過性亢進を引き起こすことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、アスピリンにより、小腸上皮細胞の透過性がミトコンドリア機能依存性に亢進すること、酸化ストレス依存性にタイトジャンクション構成蛋白質の酸化修飾が起こり、最終的な構造変化が起こること、タイトジャンクションの酸化修飾を標的とした薬剤スクリーニングによりアスピリン起因性小腸粘膜傷害に対する新規予防・治療薬を確立することを目的としている。 そのために、本研究は3年で次に示す3つの研究計画を予定した。計画1では、アスピリン刺激により、酸化ストレスが小腸上皮細胞内でミトコンドリア機能障害依存的に亢進することを証明する。計画2では、アスピリン起因性の酸化ストレスが、タイトジャンクション構成蛋白質の構造変化ならびに上皮細胞間透過性亢進を引き起こすことを証明する。計画3では、アスピリン起因性の酸化ストレスが、タイトジャンクション構成蛋白質を酸化修飾することを証明し、それを標的とした薬剤スクリーニングを行う。 平成26年度は、アスピリンがミトコンドリア機能を障害すること、酸化ストレスの産生が亢進すること、上皮細胞透過性が亢進することを証明することを中心に検討を行い、結果として、当初の目標であったアスピリンは小腸上皮細胞内のミトコンドリア機能障害を介した酸化ストレス(スーパーオキサイド)産生亢進を引き起こすこと、小腸上皮細胞間の透過性亢進を引き起こすことを明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きアスピリンによるミトコンドリアの機能障害について詳細な検討を行う。また、アスピリン刺激後の上皮細胞間透過性を制御しているタイトジャンクション構成蛋白質の発現変化ならびに酸化ストレスとの関連に焦点を絞り、そのメカニズムを明らかにする。最終的には、低濃度アスピリン起因性上皮細胞内酸化ストレス産生と上皮細胞透過性亢進の関連を解明し、それらを標的にした予防・治療薬の探索を行う。 具体的には、アスピリン刺激を受けた小腸上皮細胞内のミトコンドリアを超遠心法により分離し、Blue Native PAGE にてミトコンドリア呼吸鎖の複合体の発現について検討する。また、タイトジャンクションを構成する蛋白質の発現変化をウェスタンブロッティングで評価し、構造変化を蛍光免疫染色法で検討する。さらには、抗酸化剤(過酸化水素を消去するカタラーゼや、スーパーオキシドを消去するスーパーオキシドディスムターゼの類似薬)を用いて、アスピリン起因性小腸上皮細胞透過性亢進と酸化ストレスの関連を解明し、アスピリンによる酸化ストレス亢進を引き起こす活性酸素種を同定し、その攻撃対象となるタイトジャンクションの構成蛋白質を同定する。活性酸素種を消去するような既存の胃粘膜保護薬(レバミピド、イルソグラジン、ポラプレジンクなど)を用い、それぞれの薬剤の上皮細胞間透過性亢進の抑制効果を検証する。 また、我々はin vivoの評価系としてこれまで唯一齧歯類で作製が報告されているアスピリン小腸粘膜傷害ラットモデルの作製に成功しており、小腸粘膜透過性をin vivoで評価することも可能である。本研究で得られた知見から、将来的な臨床使用可能な候補薬剤を決定することが将来的には可能であると考える。
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Causes of Carryover |
研究に必要な物品、試薬は概ね予定通り使用したが、年度末の細胞実験において、コンタミが生じたため、Caco-2細胞の培養過程で少しの遅れが生じた。 それに伴い、小腸上皮細胞間におけるタイトジャンクションを構成する蛋白質の発現変化をウェスタンブロッティングで評価し、構造変化を蛍光免疫染色法で検討する段階で抗体試薬の購入に遅れが生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
新たに細胞を培養し、現在順調に再開できている。今後の研究の推進方策に従い、小腸上皮細胞間におけるタイトジャンクションを構成する蛋白質の発現変化をウェスタンブロッティングで評価し、構造変化を蛍光免疫染色法で検討していく。
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Research Products
(2 results)