2014 Fiscal Year Research-status Report
バルプロ酸による放射線誘発口腔粘膜炎軽減作用の検討
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26860106
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
田中 亮裕 愛媛大学, 医学部附属病院, 准教授 (50527562)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 放射線 / 口腔粘膜炎 / バルプロ酸ナトリウム |
Outline of Annual Research Achievements |
ハムスターのチークポーチにX線30Gyを単回照射することにより、放射線誘発口腔粘膜炎モデルの作製を行った。バルプロ酸ナトリウム100, 300, 600mg/kgの投与を行い、放射線照射後14日目の好中球ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を測定したところ、用量依存的なMPO活性の低減を認めた。また、放射線照射後8日目および14日目のH&E染色像では粘膜下の炎症性細胞の浸潤や粘膜上皮の破たんがバルプロ酸600mg/kg投与群では顕著に軽減していた。細胞増殖マーカーの一つであるMinichromosome maintenance protein 4 (MCM4)の免疫染色を行ったところ、バルプロ酸600mg/kg投与群では粘膜組織の陽性細胞が多く観察され、粘膜増殖機能が維持されていることが明らかとなった。 ヒストンH3およびH4のアセチル化を測定したところ、バルプロ酸600mg/kg投与群では投与後2時間よりヒストンのアセチル化が開始していることが確認され、48時間後においても維持されていた。一方、バルプロ酸600mg/kg投与後の組織中バルプロ酸濃度は投与3時間後には半減し、12時間後には検出限界以下であった。このことから、バルプロ酸単回投与においてもヒストンのアセチル化は長時間維持され、口腔粘膜炎の改善に寄与していることが示唆される。 リアルタイムPCR法により各種遺伝子発現を測定したところ、投与後14日目のTGF-βの発現量がバルプロ酸投与群では有意に低下していた。また、β-cateninの発現量はバルプロ酸投与後8日目および14日目いずれも上昇していた。これらのことは放射線による組織のアポトーシスを軽減しつつも粘膜上皮増殖を促進していることを示唆する。 以上より、バルプロ酸ナトリウムは放射線誘発口内炎を軽減する可能性が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ハムスターを用いた放射線誘発口腔粘膜炎モデルでバルプロ酸ナトリウムの有用性を評価したが、予想されたメカニズムに関してはおおむね検討することが出来た。MPO活性の測定により、全般的な炎症の程度を評価した。また、H&E染色により、経時的(8日後および14日後)の組織学的評価を行った。加えて、細胞増殖マーカーの1つであるMCM4免疫染色を実施することによりバルプロ酸ナトリウムによる細胞増殖の維持(放射線による細胞死の抑制)が確認された。ヒストンH3,H4のアセチル化測定も当初の予定通り実行することが出来た。当初作用機序の検討はWestern blotting法、リアルタイムPCR法、免疫組織化学法等を予定していたが、使用動物にハムスターを用いたことから、リアルタイムPCR法および免疫組織化学法を選択した。 MPO活性の測定およびH&E染色による評価はこれまでに数多く実施した経験があったことから、問題なく遂行できた。MCM4免疫染色は初の試みであったが、ハムスターでの交差性も問題なく染色可能であった。ヒストンH3およびH4のアセチル化に関しても問題なく測定可能であった。リアルタイムPCR法は発現量が低い遺伝子もあったものの、当初予定していた遺伝子(TGF-β、NF-κb、β-catenin、Wnt1、Smad7)について測定を実施出来た。 ハムスターを用いたモデルで上記の評価が可能であったが、今後メカニズムの検討過程でマウスを用いる必要があればマウスでも実施する。動物実験はおおむね順調に進展していると考えられ、今後は培養細胞等を用いた検討を実施していく見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでにハムスターのモデルを用いた放射線誘発口腔粘膜炎に対するバルプロ酸ナトリウムの有用性を検討してきた。今後は放射線治療における抗腫瘍効果へのバルプロ酸の影響を動物モデルおよび培養細胞を用いて検討する。すなわち、バルプロ酸投与により放射線照射による抗腫瘍効果に悪影響が出ないことを確認する。ヒト扁平上皮がん細胞あるいはヒト腺がん細胞を用いて放射線照射を行い、MTTアッセイにて細胞生存率を計測することで、バルプロ酸の抗腫瘍効果および放射線増感作用等を検討する。評価のために至適照射線量および至適バルプロ酸濃度を検討する必要があり、現在のところ照射線量は2, 4, 6, 8, 10 Gy、バルプロ酸濃度は1, 5, 10 mMで実施する予定である。至適照射線量を決定した後に、バルプロ酸濃度による用量依存性を検討する。 動物モデルとしては7, 12-dimethylbenz (a) anthracene (DMBA)等を投与した腫瘍モデルを用いて放射線照射を行い、その腫瘍縮小効果に及ぼすバルプロ酸の影響を検討する。照射線量およびバルプロ酸投与量は口腔粘膜炎の際と同様(30Gy, 600mg/kg)に設定する。評価法としては病理学的診断、免疫組織化学法等を予定している。動物種としてはハムスターを用いる予定であるが、評価困難な際にはマウスでの検討も考慮する。また、バルプロ酸がp53等の腫瘍抑制遺伝子の発現を促進することで抗腫瘍効果を示すという報告もあることから、これらの抑制遺伝子の発現をWestern blotting法、リアルタイムPCR法等を用いて検討する。
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Causes of Carryover |
端数で使用しきれなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
計画通り研究を進める
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