2016 Fiscal Year Research-status Report
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26860159
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中村 佳子 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (60548543)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 発熱 / プロスタグランジン / 視床下部 / 摂食 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は、感染性発熱の責任受容体であるプロスタグランジンEP3受容体を発現する視索前野のニューロン(EP3ニューロン)が発熱に附随する不快情動、摂食抑制、睡眠抑制などの症状をも引き起こすという作業仮説を立て本研究を行った。EP3ニューロンの神経生理学的性質が不明であり、また、発熱惹起の際に視索前野のEP3ニューロンの活動がどのように変化するのかという点も明らかにされていなかった。本研究では研究代表者が作製した遺伝子組み換えラットを用いて、発熱物質プロスタグランジンE2が作用した際のEP3ニューロンの神経活動変化をパッチクランプ法を用いて解析した(継続中)。 また、本研究の研究対象である感染症状の一つとして摂食抑制が挙げられるが、その摂食抑制を研究する上で、摂食調節の神経メカニズムを明らかにする必要があった。空腹になると胃からグレリンが分泌され視床下部弓状核からニューロペプチドY(NPY)が分泌され、視床下部室傍核に作用すると摂食が増進し代謝が抑制される。しかし、このNPY作用によって惹起される飢餓信号がどのような神経回路機構を経て代謝や摂食を制御するのかは不明であった。本研究では、代謝を制御する脳領域として延髄網様体を同定した。ラットの延髄網様体にin vivoで薬物を微量注入して刺激すると、褐色脂肪組織の熱産生が抑制された。覚醒下のラットの延髄網様体を刺激すると摂食や咀嚼運動が亢進した。研究代表者は、延髄網様体のGABA作動性ニューロンが、摂食と代謝調節に関わる両方の出力領域に神経伝達することで、自律神経系と運動神経系を平行して制御することで効率良く飢餓を生き抜くという新知見を示した(Cell Metabolism誌に論文発表しプレスリリースした)。この神経回路機構は感染時の摂食抑制にも関わる可能性があり、現在研究を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該研究は、発熱に附随する食欲不振や不快感などの症状の中枢メカニズムを明らかにするために、視索前野のEP3ニューロンの神経活動特性と、摂食の中枢神経メカニズムを解明するところから行う必要があった。EP3ニューロンの神経活動特性を知るために、スライスパッチクランプ実験を行うことでその神経細胞の性質の生理学的解析を続けている。 摂食の中枢メカニズムに関しては、空腹時に分泌されるニューロペプチドYの摂食亢進と代謝抑制機能を司る脳領域を世界に先駆けて明らかにし、また、その神経回路メカニズムを提示して国際誌に論文として発表した。摂食と代謝が同一のニューロン群でコントロールされているという知見は、今後、摂食代謝メカニズムの研究分野でも重要となるものと考えられ、本研究で目的する感染症状の摂食抑制の中枢神経回路メカニズムに関する解析を継続する上でも重要な手がかりとなっている。 こうした進捗状況に鑑み、本研究はおおむね順調に進んでいるものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、視索前野のEP3ニューロンの神経特性を解析するため、スライスパッチクランプ実験を継続する。また、視索前野EP3ニューロンにGCampを特異的に発現させて、カルシウムイメージングも行うことによって、このニューロン群の活動特性を詳細に検討する。 また本研究では、摂食と代謝を繋ぐ中枢神経メカニズムを明らかにしたが、ラットの感染モデルを用いて摂食抑制を解析し、感染時の摂食抑制メカニズムの解明につなげていきたい。感染に伴う不快症状・行動に関しては、視索前野EP3ニューロンの投射先の中で情動に関係すると考えられる脳領域の神経活動を特異的に人為制御し、解析を行っていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
解析中の視索前野のEP3ニューロンは、予想外にもろく、想定以上に多種類の性質を持ったニューロンの集まりであることが明らかとなった。そのため、さらに時間をかけて十分な実験例数を取ることで、慎重に実験結果を判断する必要があると考えたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
スライスパッチクランプ法を用いて視索前野EP3ニューロンの神経活動を解析する。その際、詳細に神経活動特性を理解するために、神経活動に影響を与えるかどうかを調べる刺激の種類を増やす。神経活動の記録のみならず、カルシウムイメージングも取り入れ、検討する。脳組織スライスのみならず、視索前野EP3ニューロンのみを初代培養し、パッチクランプ解析を行うことも検討する。また、摂食を調節する神経回路に関わる神経伝達物質を明らかにするために、共焦点レーザー顕微鏡を使用し検討していく。
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Research Products
(8 results)