2014 Fiscal Year Research-status Report
TGFβシグナルの亢進は脳小血管病を引き起こすか?
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26860208
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
加藤 泰介 新潟大学, 脳研究所, 特別研究員 (30598496)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | TGF-β / 脳小血管病 / CARASIL / 血管平滑筋細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、TGFβシグナルの亢進が、脳小血管病態を引き起こすか否かを明らかにすることである。TGFβの脳小血管病への関与は、ヒト剖検脳の研究から指摘があったが、申請者の研究室が遺伝性脳小血管病: CARASILの原因遺伝子としてプロテアーゼであるHTRA1を発見し、HTRA1の基質であるTGFβがCARASIL患者脳血管に蓄積を認めたことから、TGFβが本症の、ひいては孤発性脳小血管病の病態背景に存在する可能性が飛躍的に高まっている。申請者はTGFβ1過剰発現マウス(TGFβ1 Tgマウス)を用いて、TGFβシグナルが脳小血管病病態発症に関与することを直接的に明らかにするとともに、生理的な内在性HTRA1喪失時に起こるTGFβシグナル動態への影響を検討することとした。 平成26年度は、TGFβ1 Tgマウスの脳軟膜血管壁の構造的変化を病理染色、免疫染色の手法を用いて構造学的に詳細に評価してきた。まず、脳小血管病の最も著明な指標である血管平滑筋細胞変性に関して、同細胞のマーカータンパク質であるα smooth muscle actinの免疫染色を用いて解析を行った。その結果、24ヶ月の高齢期のTGFβ1 Tgマウスの脳血管において、顕著な血管平滑筋細胞の萎縮と脱落といった、ヒト脳小血管病類似の変性が確認された。また、一般染色を用いた構造学的な解析によって、TGFβ1 Tgマウスの脳表血管にはCARASIL患者で確認されるような血管内腔の拡大所見が観察された。この所見は血管平滑筋細胞の変性による血管収縮能の低下によって招かれた構造変化だと推測された。これまでの結果より、脳軟膜血管レベルではTGFβ1シグナルの亢進によって、脳小血管病類似の血管構造異常が引き起こされることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度のTGFβ1過剰発現マウスの脳軟膜血管の構造学的な解析により、TGFβシグナルの異常亢進は、脳小血管病類似の血管平滑筋細胞の変性、脱落を引き起こすことを生体で明らかにすることが出来た。これは、これまで孤発性脳小血管病、並びに遺伝性脳小血管病で示唆され続けてきた仮説が、実際に起こりうることを初めて実証した結果である。 さらに、この結果はこれまで、ほとんどが謎であった脳小血管病の分子メカニズムの一端を明らかにする突破口となりうるものであり、血圧コントロールが唯一の治療介入方法であった本症の新たな治療法をもたらす可能性を示唆するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
1) 内在性HTRA1の喪失によるTGFβシグナルへの影響 これまでの、HTRA1によるTGFβシグナルの制御機構は過剰発現系、株化細胞系を用いた解析が主であった。申請者は、生理的な動態を明らかにするために、内在性HTRA1の喪失が及ぼすTGFβシグナルへの影響を解析する。HTRA1を発現する細胞は血管内皮細胞とアストロサイトであることが分かっている。そこで、HTRA1ノックアウトマウス、野生型マウスから両細胞の初代培養を作成し、両者の順化培地並びに細胞外マトリクス分画に存在するTGFβファミリー分子の定量をELISA法を用いて行う。また、TGFβシグナルへの直接的な関与を解析するために、TGFβシグナル下流でリン酸化されるSMAD分子のリン酸化レベルの定量を、さらにTGFβ下流で発現が亢進する遺伝子の発現レベルを定量RT-PCRを用いて定量する。 2) TGFβ1 Tgマウスの毛細血管ペリサイトと血液脳関門バリア機能の解析 前年度のTGFβ1過剰発現マウスの研究によりTGFβ1シグナルの亢進は、血管平滑筋細胞の変性を引き起こすことが明らかとなった。中枢神経系では、細小血管以下の毛細血管は血管平滑筋細胞ではなく、ペリサイトが血管を取り巻き、血流調節並びに血液脳関門の機能調節をになっている。次年度は、このペリサイトの形態的解析をペリサイトの毛細血管被覆率を指標として進める。また、毛細血管においても、血管内皮細胞の免疫染色によって、血管腔の径計測を行い、収縮率への影響を解析する。また、ペリサイトの変性やHTRA1が発現する血管内皮細胞の障害は、血液脳関門のバリア機能の破綻につながることから、トレーサー分子の脳内への漏れ込みを指標にTGFβ1過剰発現マウスの血液脳関門機能の評価を行う。
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Causes of Carryover |
想定されていた以上にモデルマウスが、強い脳小血管病の表現型を呈することが研究開始初期に明らかとなったため、初年度は本表現型の詳細なデータ回収に重点を置き実施した。従って必要な抗体、染色試薬も最小限で遂行可能であったため、初年度は想定していた研究費を大幅に削減できた。また、高齢期にこの所見が表れることが研究開始初期に判明したため、無駄な繁殖を停止し、確立されていた高齢マウスの詳細な研究を行ったため繁殖費用を必要とせず、自実験室に設置されている飼育室で自身で管理を行ったため飼育にかかる費用も最低限に抑えることが出来た。必要備品は、すでに研究室に確保されていた試薬と備品、また不足分は学内の研究助成金と学外の寄付金により遂行可能であった。また、研究内容上、次年度に使用動物数と必要物品の大幅な増加が見込まれるため、物品の使用期限も鑑みて初年度の物品の購入を最小限に抑え次年度に使用するよう計画した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
1)毛細血管に関する研究:平成27年度は、繰り越した毛細血管に関する研究を開始する。毛細血管の研究は新規性の高い研究領域であるため、標的や手法も探索的な研究になることが予想される。従って、主に毛細血管の構造的な障害を明らかとするための、幅広い抗体の購入を予定している。また、血液脳関門の評価には分子量の異なる数種のトレーサー分子を購入する。 2)内在性HTRA1の喪失によるTGFβシグナルへの影響:これに関する研究をHTRA1ノックアウトマウスから樹立した初代培養細胞を用いて行う。従って、初代培養細胞確立のために、相当数の若齢期マウスが必要となる。このマウスの繁殖用動物の購入と繁殖費用、飼育費用に使用する。また、細胞分子生物学的解析のために、培養関連試薬、抗体、ELISAキット、遺伝子導入試薬、核酸精製試薬類を購入する。
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