2014 Fiscal Year Research-status Report
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26860221
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Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
佐藤 礼子 東京薬科大学, 生命科学部, 助教 (90469966)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | メラノーマ / 神経冠形成遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、がんおよび神経冠形成における“EMT(Epithelial-Mesenchymal Transitions)機構の類似性” に着目し、神経冠形成に必要な遺伝子群の中から、がんEMT を制御している分子を探索し、探索により同定した“がんEMT を制御する新たな遺伝子”の作用機序を明らかにすることにより、がん悪性化・転移の分子機構を解明することを目的として研究を進めている。これまでに申請者らは30 種程度の神経冠形成遺伝子を対象としたsmall interfering (si)RNA スクリーニングを行い、メラノーマ細胞の転移を促進する候補遺伝子を選抜している。その中の一つの神経冠形成遺伝子について作用機序の解明を進め、1. 正常ヒト組織では脳と精巣でのみ高発現している、2. 正常ヒトメラノサイトと比較し、メラノーマ細胞株で高発現している、3. メラノーマ細胞においてその遺伝子 を発現抑制するとE-カドヘリン発現の増加、分化の促進、移動能・浸潤能・転移能の低下が引き起こされる、4. 神経冠形成遺伝子安定過剰発現株ではE-カドヘリン発現の低下、脱分化の促進、運動能の亢進がみられる、などの知見を得ている。さらに、ヒトメラノーマ臨床検体をもちいた免疫染色により、神経冠形成遺伝子が良性母斑と比較し、メラノーマ組織において高発現していることを明らかにした。さらに、神経冠形成遺伝子の作用機序として、Eカドヘリンプロモーターへの結合とプロモーター活性制御機能があることを明らかにした。また、神経冠形成遺伝子には抗アポトーシス作用があり、メラノーマ治療で使用されているBRAF阻害薬への感受性を弱めていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請者らは、神経冠形成遺伝子に対するsiRNAスクリーニングをEカドヘリン発現を指標にして行い、一つのメラノーマ増悪に関与する候補遺伝子を同定している。既に、この神経冠形成遺伝子の転写因子としての機能を明らかにし、神経冠形成遺伝子がEカドヘリンプロモーターに結合すること、Eカドヘリンプロモーター活性を抑制すること、を明らかにしている。さらに、神経冠形成遺伝子が結合する詳細なDNA配列もゲルシフトアッセイにより同定しており、27年度に行う予定であった内容を既に達成している。 さらに、メラノーマ臨床検体におけるこの神経冠形成遺伝子の発現解析を免疫染色法により行い、良性母斑と比較し、メラノーマ検体において神経冠形成遺伝子が有意に高発現しているという重要なデータを得ている。また、この神経冠形成遺伝子がメラノーマにおいて、抗アポトーシスや薬剤耐性に関与しているという非常に興味深い結果が得られており、当初の予定以上の進展と興味深い結果が得られている。メラノーマ治療において、原因遺伝子であるBRAFの阻害剤を用いた治療が行われているが、BRAF阻害剤に対する薬剤抵抗性が生じることにより、その効果が限定的であることが問題となっていることから、今回我々が得た結果はメラノーマ薬剤耐性機構を破壊するためのブレークスルーになる可能性が高く、非常に重要な結果が得られたと考えられる。 以上のことから、現在までの本研究の達成度は当初の計画以上に進展している、と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでにスクリーニングにより同定した神経冠形成遺伝子の解析より、ある神経冠形成遺伝子がメラノーマの増悪(増殖・転移・薬剤耐性)を促進する転写因子であり、メラノーマ特異的に発現する因子であることが明らかになったことから、この神経冠形成遺伝子の下流で発現制御を受ける遺伝子を網羅的に探索する。その中から、この神経冠形成遺伝子の機能に重要であり、治療標的にしやすい因子をピックアップし、機能解析を行う。これら下流因子の重要性が実験的に示された場合、阻害薬や中和抗体での阻害を行い、治療標的としての評価を行う。具体的には、免疫不全マウスを用いたがん移植実験を行い、形成させたがんの縮小効果を測定する。この際、単独投与のみではなく、BRAF阻害薬との併用も試みる。併用することで、メラノーマ細胞に生じる薬剤耐性を抑制し、BRAF阻害薬の効果が高まることが期待できる。また、同定した神経冠形成遺伝子によりどのような分子機構で薬剤耐性(抗アポトーシス)が亢進するのかについて解析を行い、詳細な分子機構を明らかにする。 さらに、スクリーニングにより得た他の遺伝子の機能解析も進め、より多くのがん悪性化促進機構を解明する。これらの実験を行うことで、がん治療薬としての新規ターゲットが同定できる可能性が高く、また、現在がん治療でしばしば問題になっている薬剤耐性機構を破壊するための知識が得られる可能性が高く、本研究は大変意義深いと考えられる。
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Causes of Carryover |
本研究では、神経冠形成遺伝子に対するsiRNAスクリーニングを2度行う予定であったが、一度目のスクリーニングで得られた候補遺伝子に非常に重要な役割があることが分かったため、本年度はこの遺伝子の解析を重点的に進めた。 そのため、本年度は2度目のスクリーニングを行わなかったため、siRNAを購入する予定であった資金などに余りが生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、引き続き同定した神経冠形成遺伝子のメラノーマ増悪促進機構について解析を行うと同時に、さらなる増悪促進因子の同定を試みる。同定した因子の阻害を行うための阻害剤や、抗体の購入、また、既存のメラノーマ治療薬との併用作用を検証する為、既存のメラノーマ治療薬を購入する予定である。 また、生体内での効果を検証するため、免疫不全マウスを用いて腫瘍形成実験を行うため、免疫不全マウスを購入する予定である。その他、分子生化学的なアッセイを行うための試薬や学会出張費などが必要である。
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