2014 Fiscal Year Research-status Report
糖尿病の新規発症機序:β細胞接着分子CADM1の細胞外切断
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26860267
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
米重 あづさ 近畿大学, 医学部, 助教 (70586750)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 細胞間接着分子 / 細胞死 / 耐糖能 |
Outline of Annual Research Achievements |
Cell adhesion molecule 1 (CADM1)は肺呼吸上皮細胞や膵島内分泌細胞に発現する細胞間接着分子で、細胞の形態・極性維持や細胞間情報伝達を司る。申請者らは、気腫状肺ではCADM1の細胞膜直上での酵素的切断(shedding)が亢進しており、そのshedding産物が肺胞上皮細胞のアポトーシスを誘導することを明らかにした。一方、2型糖尿病(T2DM)膵では膵島β細胞のアポトーシス亢進が報告されているが、その原因は不明である。本申請課題では、T2DMにおけるCADM1の発現の実態を明らかにし、CADM1のshedding亢進がβ細胞のアポトーシスを惹起するという仮説を検証するとともに、糖尿病における耐糖能低下の要因となることを明らかにする。 本年度はT2DMにおけるCADM1の発現の実態を明らかにするために、T2DM膵のパラフィンブロックを病理解剖症例から収集し、ウェスタンブロット法と蛍光免疫染色により、CADM1の発現量やshedding亢進の程度、及びCADM1の細胞内局在を解析した。その結果、T2DM膵(12例)では対照群(8例)に比べて、CADM1のshedding率が上昇し、CADM1の全長型の発現量が減少していることがわかった。また、対照群の膵島β細胞ではCADM1は細胞膜上に局在しているのに対し、T2DM群ではCADM1の細胞膜上での発現量は減弱し代わりに細胞質にCADM1の局在が観察され、T2DM群では対照群に比べてCADM1が細胞膜上に局在している膵島β細胞の数が4分の1程度に減少していることがわかった。次に、上記のT2DM膵におけるCADM1の発現変化と耐糖能低下との直接的な相関性を明らかにするため、生前のヘモグロビンA1c (HbA1c)値を調べ、ウェスタンブロットの結果との相関解析を行った。その結果、CADM1の全長型の発現量は負に、CADM1のshedding率は正にHbA1c値と相関していることがわかった。以上の成果は、T2DM膵におけるCADM1のshedding率の亢進はCADM1の全長型の減少をもたらし、耐糖能低下の一因となることを強く示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.2型糖尿病膵におけるCADM1の発現と耐糖能異常の実態調査:ほぼ達成した 当初の研究計画どおり、2型糖尿病膵および対照群のパラフィンブロックを用いたウェスタンブロット法によりCADM1の発現変化を解析することに成功した。また、免疫組織染色法によりCADM1の膵島β細胞での細胞内局在を明らかにし、ウェスタンブロットによる結果との一致をみた。そして、検体の生前のヘモグロビンA1c値を調査し、CADM1の発現変化とHbA1c値が相関していることを見出した。以上の成果は米専門誌PLOS ONEに報告した(Inoue T, Hagiyama M, Yoneshige A, et al. Increased ectodomain shedding of cell adhesion molecule 1 from pancreatic islets in type 2 diabetic pancreata: correlation with hemoglobin A1c levels. PLOS ONE 2014; 9(6): e100988. doi: 10.1371/journal.pone.0100988. 成果1)。 2.2型糖尿病膵におけるβ細胞アポトーシスの実態とCADM1のsheddingが関与する分子機構の解明:やや遅れている 上項1により、T2DM膵におけるCADM1のshedding率の亢進はCADM1の全長型の減少をもたらし、耐糖能低下の一因となり得ることを示したが、このCADM1の発現変化と耐糖能低下との直接的な相関性は未だ明らかではない。申請者らのグループは以前の研究において、肺胞上皮細胞ではCADM1のshedding産物がアポトーシスを誘導すること、全長型CADM1は膵島細胞間のコミュニケーションを媒介してホルモン分泌に関わることを報告している。このことから、T2DM膵ではCADM1のshedding亢進によってβ細胞のアポトーシスが、全長型CADM1の発現低下によってインスリン分泌能の低下が、それぞれ誘導され耐糖能低下につながったのではないかと考えた。現在、T2DM膵組織と膵島β細胞株を用いて仮説の検証を開始したところで、細胞実験においては仮説が一部証明されつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はCADM1の発現変化と耐糖能異常との直接的な相関性を明らかにするために下記2つの仮説の検証を行う。 1.CADM1のsheddingによるβ細胞のアポトーシス誘導 膵島β細胞株MIN6細胞においてCADM1のshedding産物を強発現させTUNEL法によりアポトーシス細胞数を数えたところ、アポトーシスの亢進が見られた(成果1の論文で報告済み)。以前の研究において、肺胞上皮細胞ではCADM1のshedding産物はミトコンドリアに局在し、ミトコンドリア膜電位の低下を惹起することによってアポトーシスを誘導することを報告したが、MIN6細胞ではCADM1のshedding産物のミトコンドリア局在は検出されなかった。よってCADM1のsheddingによるβ細胞のアポトーシス誘導にはミトコンドリアを介さない経路が関与していると考えられ、今後は下流のカスパーゼ活性化の有無や細胞死受容体の活性化の可能性を検証していく。同時にT2DM膵においてβ細胞のアポトーシス陽性率を算出し、CADM1のshedding率や全長型発現量、HbA1c値との相関解析を行う。一方で、なぜT2DM膵でCADM1のsheddingが亢進しているのかという点が明らかでないため、CADM1のsheddaseであるADAM10の活性をウェスタンブロットや免疫染色、ペプチド基質による活性測定などにより、膵組織や細胞株において検証する。 2.全長型CADM1の発現低下によるインスリン分泌能の低下 MIN6細胞においてCADM1のsiRNAにより全長型CADM1の発現低下を試みたが、現在のところ有用な低発現細胞株が樹立できていない。異なるsiRNAの発現方法、またはsiRNA配列を変更するなどしてCADM1低発現MIN6細胞株の樹立を目指すと共に、別の膵島β細胞株(RIN-5F)でも検討する予定である。インスリン分泌能の測定はELISAを用いた方法を既に確立しており、準備状況は順調である。
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Causes of Carryover |
平成26年度の物品費には、発現解析に必要なウェスタンブロット用試薬や抗体類、組織切片作製用消耗品や組織染色試薬等が含まれていたが、申請者の所属する研究室において所有する物品を使用したため、見積額を下回った。また、申請者は所属機関である近畿大学において学内助成金を獲得したため、その他の必要経費を学内助成金にて補ったため、使用額が発生しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度の消耗品費には、細胞実験において必要なTUNEL法等のキット類、培養試薬や培養用消耗品、ライブイメージング試薬、アポトーシス関連抗体等が主に含まれる。特に細胞実験においては複数の実験方法を検証する必要性が生じたため、当初の見積額以上の経費が必要である。また、ヒト由来試料の保管のために設備備品費として超低温フリーザーを購入予定である。
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Research Products
(1 results)