2015 Fiscal Year Research-status Report
ピロリン酸を軸とした赤痢アメーバの嫌気的代謝系とオルガネラ進化の原動力の解明
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26860275
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
千葉 洋子 筑波大学, 生命環境系, 助教 (70638981)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | オルガネラ進化 / ミトコンドリア / エネルギー代謝 / 代謝生化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請研究は、赤痢アメーバ原虫が有する縮退したミトコンドリア(マイトソーム)が多くの機能を失いつつも硫酸活性化経路という新たな機能を獲得した理由を、「ピロリン酸代謝」をキーワードに明らかにすることを目的とする。すなわち、細胞質とマイトソームにおけるピロリン酸が関与する代謝系の特徴を理解することで、「複数の相対するピロリン酸が関与する代謝が細胞内に共存するために、膜による代謝系の分離が起きた」という仮説の正否を検証する。 本年度は、昨年度作成したシステム、すなわち細胞質にピロリン酸分解酵素を人為的に発現させるシステムを用い、細胞質ピロリン酸濃度の低下が赤痢アメーバにどのような影響を及ぼすか観察した。その結果、細胞質にピロリン酸分解酵素を発現させると赤痢アメーバが死に至ることが確認された。また、本分解酵素を発現させると実際にピロリン酸濃度が低下すること、さらにATP濃度も低下することが明らかになった。また、解糖系中間代謝産物の増減から、本ATPの減少は、解糖系におけるピロリン酸を必要とする酵素反応の阻害によって起こることが強く示唆された。すなわち、細胞質内のピロリン酸濃度を高く維持し、解糖系を機能させるために、赤痢アメーバはピロリン酸分解酵素および硫酸活性化経路をオルガネラ内に「閉じ込めた」という仮説をサポートする結果が得られた。これについては現在論文投稿準備中である。 さらに、赤痢アメーバ内でピロリン酸濃度の恒常性維持に関わっていることが期待される新規酵素、ピロリン酸型ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼを同定し、原著論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
仮説の正否を検証するための実験系の構築に成功し、適切なデータを取得しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
上で同定した新規酵素ピロリン酸型ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼは、赤痢アメーバの生存に必須であることが強く示唆された。また、既知のATP, GTP型ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼとはアミノ酸配列が全く異なり、反応に関する立体構造的情報が皆無である。今後本酵素が赤痢アメーバの中央代謝系、特にピロリン酸依存的な解糖系に及ぼす影響を詳細に調べることで、赤痢アメーバが嫌気環境に適応し、ピロリン酸依存的な解糖系を獲得していった過程、およびそれに合わせてミトコンドリアが特殊化していった進化の道筋に対する理解がさらに深まると期待される。そこで、本酵素の立体構造解析を行い、本酵素の阻害剤を探索する一助にしたい。そして、赤痢アメーバのホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ活性を特異的に阻害することを可能にし、本生物の嫌気的エネルギー代謝に対する理解を深めたい。さらに、本酵素の立体構造をATP, GTP型のそれと比較することで、中心的代謝酵素の進化についても考察を加える計画である。
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Causes of Carryover |
分析を企業に委託する予定で合ったメタボローム解析について、共同研究先が見つかったために費用がかからなかったから。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は所属が変わり物品購入の必要性が生じる可能性が高いので、これに使用する予定である。
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Research Products
(3 results)