2014 Fiscal Year Research-status Report
アミノ酸代謝産物プロファイリングによる抑うつ症状の新規診断・治療法の探索
Project/Area Number |
26860368
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
村上 由希 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (50580106)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 慢性炎症 / トリプトファン / 抑うつ / ニコチン |
Outline of Annual Research Achievements |
精神神経疾患の一つであるうつ病は、疫学的研究より喫煙と密接に関係のあることが指摘されている。タバコ中の生理活性成分であるニコチンは、ニコチン性アセチルコリン受容体 (nAChR) の強力な作動薬である。nAChRのアンタゴニストであるキヌレン酸 (KA) は、トリプトファン (TRP)-キヌレニン (KYN) の代謝産物であり、TRP欠乏食によって、うつ病患者での情動が変化することが近年、報告されている。しかしニコチンがTRP-KYN代謝経路に与える影響は明らかにされていない。本研究は、ニコチンがTRP-KYN代謝経路に与える影響を明らかにし、nAChRを標的とした抑うつ病態の新たな診断・治療法の開発を主たる目的として行った。本年度の研究実績を下記に示す。
1)ニコチンの慢性投与後のマウスにおける行動薬理学的解析とTRP代謝産物の動態(基礎データ)。マウスに生理的な条件でニコチンを摂取させた後、行動薬理学的解析と血中のTRP代謝産物を測定し、ニコチンによる影響を検討した。
2)胎生期ニコチン投与が抑うつ様病態モデル動物に与える影響とTRP代産産物の動態。1)の結果を受け、ニコチン単独投与によって抑うつ病態を発症するモデルは解析が困難と考えらた。そこでニコチン単独投与モデルの解析ではなく、胎生期ニコチン投与(注意多動性障害モデル)と成長後の炎症が抑うつ病態に与える影響を検討した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
基礎検討実験を受けて、交付申請書の記載にあった研究内容を若干修正したため、実験の進行がやや遅れている。 これまで我々は、in vitroにおいて、ニコチン関連代謝産物がTRP代謝経路に及ぼす影響を明らかにしてきたが、今年度の基礎検討実験により、in vivoにおいてもTRP代謝経路に影響することを明らかにした。しかしながら、ニコチン単独投与ではTRP代謝産物への影響はマウス個体において十分に影響がみられたが、行動薬学的影響を及ぼすのに非常に時間がかかると思われた。 そこで共同研究者らとより効率的な実験モデルを相談した上で、胎生期ニコチン暴露モデルに着目した。ニコチンの胎生期暴露で、出生後の仔マウスでは注意多動性障害がみられるが、抑うつ症状は見られない。このモデルに我々の研究室で保持している炎症モデルマウスのシステムを組み合わせることによって、ニコチン、TRP代謝経路ならびに抑うつ病態の関係を明らかにできると考え、軌道修正した上で実験を遂行中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度までにニコチンの慢性投与によるTRP代謝への影響を検討した。また行動薬理学的解析を行った結果、ニコチンの単独投与では行動薬理学的影響を及ぼすのに非常に時間がかかると考えられた。そこでニコチンの胎生期投与後、炎症を惹起した抑うつモデル動物を作成し、この動物における血清、脳におけるTRP-KYN代謝産物の動態を明らかにした。また抑うつ行動、基本的な自発行動量や記憶障害について確認した。現在、セロトニンをはじめとするモノアミン系神経伝達物質の測定をHPLCにて行っている。さらにニコチン胎生期暴露+慢性炎症を組み合わせた動物におけるTRP代謝酵素阻害剤の影響の検討、あるいはTRP代謝酵素遺伝子欠損動物を用いた検討が必要である。 その上で、健常人の血液サンプルを用いて、喫煙者・非喫煙者におけるTRP代謝産物ならびにアミノ酸を網羅的に解析したいと考えている。同時に同検体提供者における抑うつ症の評価尺度となるベック抑うつ性尺度(Beck Depression Inventory:BDI) やHAM-D (Hamilton Depression Scale) などの設問を用いた評価試験結果を得て、TRP代謝産物ならびにアミノ酸プロファイリング解析結果との相関性について検討する。喫煙が及ぼす抑うつ症状の発症や進行とTRP代謝産物動態の関係を明らかにし、抑うつ病態の発症リスクなどの発症予測診断法を代謝産物のプロファイリング手法により確立したいと考えている。
|
Causes of Carryover |
本研究で、重要な解析の一つである行動薬理学的試験の測定のために、初年度には小動物行動解析装置の費用を計上したが、共通機器として使用できるものが同施設内にあったため、購入しなかった。そのため、高額機器を購入する必要が初年度はなく、次年度への繰り越しとなった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
申請者が所属大学を異動したため、本研究で、重要な解析の一つである行動薬理学的試験の測定のための小動物行動解析装置が同施設内にない。そのため、今年度は小動物行動解析装置を購入する予定である。
|
Research Products
(5 results)