2014 Fiscal Year Research-status Report
慢性疼痛形成時の一次体性感覚野におけるグリア性シナプス再編機構の解明
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26860380
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
柴田 圭輔 山梨大学, 総合研究部, 助教 (50580411)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | グリア性シナプス再編 / 神経障害性疼痛 / ATP / グリア細胞機能変調 / 異常神経回路 / 一次体性感覚野 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、神経障害性疼痛病態モデルマウスの一次体性感覚野(S1)で起こるシナプス再編へのグリア伝達物質「ATP」の関与を調べ、以下の成果を得た。 (1)病態モデルマウスのS1における細胞外ATP濃度変化について調べたところ、手術後1日をピークに細胞外ATP濃度が一過性に上昇した。 (2)生体内で存在しうる濃度のATPを、無処置マウスのS1に注入および暴露したところ、シナプス再編が誘導された。 (3)生体内で存在しうる濃度のATPを、無処置マウスのS1に注入および暴露したところ、神経障害性疼痛の主徴である慢性的な機械的アロディニアが形成された。一方、もう一つの主徴である熱痛覚過敏は形成されなかった。 これまでの結果から、神経障害性疼痛モデルマウスのS1では、手術後1日をピークに細胞外ATP濃度が一過性に上昇すること、それに起因してシナプス再編が誘導され、延いては慢性疼痛(機械的アロディニアのみ)が形成されることが明らかとなった。この成果は、神経障害性疼痛の病態メカニズムとして、S1で起こるATP誘発グリア性シナプス再編が極めて重要であることを示した。また、ATPの制御によりグリア性シナプス再編を意図的に誘発できる可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね予想した通りの結果を得ることができ、次年度以降も計画通りの研究遂行が期待できるため。 生体脳イメージングの先駆けである生理学研究所の鍋倉研究室に出向き、本研究に必要な一次体性感覚野の開頭手術を習得したことで本研究を円滑に進められた。また、当該手術に伴う侵襲によるグリア細胞活性化が懸念されていたが、その侵襲を最低限抑えることに成功したことで、本年度の研究目的である「一次体性感覚野へのATP処置の影響」を検討することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降も計画通りに研究を遂行する。 (1)シナプス再編におけるATPの作用機序を解明する。 神経障害性疼痛(Shibata et al., PLoS One, 2011)やALSなどの中枢疾患は、病態における責任グリア細胞およびその関連分子が疾患進行時期によって異なるため、病態機序解明には細胞種・時期特異的解析が必要である。そこで本研究では、P2Y1-KOおよびVNUT-KOマウス、およびこれらを細胞種・時期特異的にON/OFFできるマウスを用いて、ATP微量投与および末梢神経傷害によるシナプス再編を解析することにより、グリア性シナプス再編におけるATPの作用機序を明かにする。 (2)新たな慢性疼痛治療戦略『シナプス再々編』仮説を検証する。シナプス再編により疼痛が慢性化したモデルマウスのS1 に、ATP 微量投与することにより再びシナプス再編を誘導(シナプス再々編)し、異常神経回路を再び正常化する。神経回路正常化には、不要なシナプスを除去し、必要なシナプスを新生あるいは残存させる過程が必要である。つまり、シナプス再々編が起き得る条件下で、S1 に入力する知覚情報をコントロールすることがシナプス再々編治療成功の鍵であると予想される。そこで、これまで疼痛行動評価に用いてきたニューロメーター電気刺激装置の特性を活かして知覚情報をコントロールする。また知覚情報の消失にはTTX や局所麻酔薬を適宜使用する。機械的アロディニアおよび熱痛覚過敏の疼痛行動評価に加え、ニューロメーターによる各種一次求心性神経特異的な刺激に対する反応閾値測定により、シナプス再々編治療の有効性を検証する。
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Causes of Carryover |
購入予定であったATPおよびATP関連試薬(ATP受容体アゴニスト、アンタゴニスト、分解阻害薬等)および抗体(ATP受容体)の一部は、在庫を使用したために本年度は購入せずに済んだ。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度購入せずに済んだ試薬および抗体は既に在庫が無くなっており、次年度が始まり次第、次年度使用分と合わせて購入する予定である。従って、購入する各試薬および抗体の累計本数は計画通りとなる。
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