BNCTに最適化した決定論的手法による超高速線量計算アルゴリズムの開発

2014 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 26860394
• Research Institution: University of Tsukuba
• Principal Investigator: 高田 健太 筑波大学, 医学医療系, 助教 (10640782)
• Project Period (FY): 2014-04-01 – 2017-03-31
• Keywords: BNCT / 線量計算

Outline of Annual Research Achievements

これまでBNCTにおける線量導出には，専ら確率論をベースとしたMonte Carlo計算が用いられていた．Monte Carlo計算は中性子の挙動をつぶさに追跡するため，導出される線量の精度が高いという利点がある一方，計算に要する時間が長くなるという欠点があった．本研究では，BNCTの線量導出にMonte Carlo計算を用いず，決定論的に高速計算する，新たな線量計算コードの開発と実用化を目指している．
平成26年度は，決定論的線量計算コードの基盤プログラムを開発し，高速線量計算を実現するために，取り扱いデータの多群化について検証した．BNCTにおいて線量を導出するためには，中性子フラックスの空間分布を計算し，カーマ係数と呼ばれる換算係数を乗じる必要がある．カーマ係数は中性子エネルギーに応じた関数であるため，データを群構造に分け，その群構造に応じた中性子フラックスを計算する必要がある．そこで，人体の軟部組織を想定した均質なファントムに対し，BNCT用のビームを照射する計算体系において，従来から用いられているMonte Carlo計算と，新たに開発した決定論的線量計算コードとで，比較評価を実施した．Monte Carlo計算で導出される線量を真値とし，開発中の決定論的線量計算コードにより算出された結果を，エネルギー群構造の違いごとに評価した．本評価により，エネルギー群構造の違いによって，導出された線量精度と計算に要する時間が異なることが確認できた．
また，開発中の決定論的線量計算コードは，将来的に人体での線量評価に適応させることを目標としている．その際基準とするのは，従来使用実績のあるMonte Carlo計算による線量である．そこで，次年度以降人体のCT画像のように複雑な計算体系についても比較評価できるよう，大容量データに対するMonte Carlo計算の実施環境も構築した．

Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

決定論的線量計算コードの基盤プログラムを構築し，簡易的なファントムモデルに対して，決定論的線量計算コードを用いて線量を算出できる環境を整えた．
また，今後は従来BNCTにおいて線量計算を担ってきた，Monte Carlo計算による線量と比較していくことが必要となることを鑑み，人体のCT画像から構成する計算モデル（ボクセルモデル）のような，大容量のメモリが必要となる体系について，計算を実行できる環境も整えた．

Strategy for Future Research Activity

開発中の決定論的線量計算コードは，エネルギーを群構造として扱うため，その群構造が粗ければ線量計算精度は落ちる反面，計算時間は短くすることができる．一方，群構造を細かくすれば，線量計算精度を高めることができるが，計算時間が長くなってしまう．平成26年度に実施した評価によって，線量計算精度と計算時間との間に，トレードオフの関係があることが把握できた．平成27年度以降は，線量計算精度をMonte Carlo計算で導出した線量の真値に対して，担保可能なレベル設定を詳細に検討していく予定である．
また，平成26年度の評価において，ファントムモデルがBNCT用ビームに対して直交しない場合，すなわちビームが斜入射となる場合には，ファントム深部における線量精度が低下する傾向が見られた．次年度以降，基盤プログラムの見直しを図り，この原因を探索すると共に，改良していく予定である．また，平成26年度に実施した，均質な物質で構成されたファントム以外，具体的には人体のような複雑な構造を有するファントムに対するMonte Carlo計算との比較検証も実施していく予定である．

Causes of Carryover

平成26年度は，BNCT用に最適化した決定論的線量計算コードの基盤プログラムを開発するための費用が主であった．構築したプログラムは，Windows用マシン上において容易に動作させることができ，簡易的な均質ファントムに対して計算可能なことを実証済みである．
平成26年度に実施した結果から，いくつかの修正ポイントも見つかった．具体的には，エネルギー群構造のさらなる最適化や，ファントム深部における線量精度の向上である．決定論的線量計算コードに対して，前述したような高精度化を図るためには，計算プログラムの見直しも必要であり，次年度以降にも費用が必要であると考えた．

Expenditure Plan for Carryover Budget

平成27年度は，開発した基盤プログラムに対して高精度化を推し進める．一方，本研究の最終目標は，臨床的な条件においてBNCTの線量計算を行うことである．BNCTの臨床では，CT画像を用いて標的臓器とリスク臓器（線量が付与されることがリスクとなる正常臓器）との関係から，どの方向からビームを照射すべきかといった照射角度の選定なども行われる．したがって，開発中の決定論的線量計算コードに，CT画像を取り込むためのインターフェースを作成するとともに，ビームが人体に対し斜入射された場合の線量評価アルゴリズムを改良していく予定である．