2014 Fiscal Year Research-status Report
大分県における過去25年間の小児急性脳炎-脳脊髄液からの起因ウイルスの網羅的検索
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26860418
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
松本 昂 大分大学, 医学部, 特任助教 (50609667)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 小児急性脳炎 / ウイルス性脳炎 / 大分県 / 原因不明脳炎 / 遺伝子検査 / 分子疫学 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに、平成5年1月14日から平成7年5月3日までの期間に集められた合計310検体の小児患者脳脊髄液からRNA及びDNAを抽出した。また、研究対象となる患者の臨床データは、平成6年7月9日から平成7年5月3日までの期間に大分こども病院にて収集・保管されたものを匿名化したのちデータ化した。 RT-PCR法による病原体の検索については、同一属内のウイルスが複数検出可能な既知のユニバーサルプライマーを用いて各ウイルスの検出を試みた。これまでに抽出した310検体について、Adenovirus(AdV)、Herpesviridae(HHV)、Paramyxoviridae及び、Enteroviridaeに対する検索を行った。PCR法によって得られた遺伝子産物は、ダイレクトシークエンス法によって塩基配列を決定し、BLAST検索、ClustalW及びMEGA softwareによって分子疫学解析を行った。 これらのスクリーニングの結果から、Enteroviridaeが19例、AdVを10例 、HHVを3例が検出され、Paramyxoviridaeは検出されなかった。AdVのhexon遺伝子領域の部分配列を用いて分子疫学解析を行った結果、AdV 10例はすべてAdV type 41であることが明らかとなった。また、単純ヘルペスウイルス(HHV-1及び-2)については、これまで国内のウイルス性脳炎の主な原因として報告されていたが、今回検出された3例は、すべてHHV- 6であった。DNAポリメラーゼ領域部分配列を用いた分子疫学解析から、これら3例は、より神経病原性の強いvariant Aであることが明らかとなった。Enteroviridae 19例については、現在、分子疫学解析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H26年度の研究実施計画では、小児急性脳炎患者脳脊髄液からの核酸抽出及び、臨床所見のデータ化を完了する予定であったが、収集・保管された検体数が予定よりも多く、当初の研究実施計画と比べ作業が進んでいない。この対策として、H26年度には核酸抽出作業を補助する実験補助員を雇用する等の改善を図った。また、患者カルテが紙媒体であった為、過去の患者情報を収集し、データ化する作業が十分進んでいない。そこで、今後は、臨床データの収集については、患者年齢や臨床所見等に情報を絞って収集し、作業の効率化を図るなど対策を講じていきたい。 一方で、H27年度以降に実施予定であったRT-PCR法による原因病原体の検出及び、分子疫学解析についての作業を前倒しし、一部のウイルスについて解析を行った。これらの研究結果は、今後の研究計画を実施する上で貴重な情報であった。即ち、ウイルス性脳炎の流行には、地域的な特徴があることが知られているが、これまで大分県内における詳細な脳炎の疫学情報は不明であった。そこで、H26年度に核酸抽出が終了した検体については、H27年度以降に実施予定であった作業を早期に進め、一部のウイルスについて流行状況を把握することとした。 これにより、今後、重点的に調査を進めるべき病原体を選定でき、H27年以降の研究実施計画を効率的に進められるよう対策ができた。また、H27年度以降に実施予定であったRT-PCR法による病原体の検出及び、分子疫学解析が一部終了したことで、H27年度以降にも現在作業が遅れている核酸抽出及び臨床所見のデータ化のための時間が確保できると予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
Enteroviridaeに対するユニバーサルプライマーを用いたRT-PCR法では、310検体中19検体が陽性であり、調査対象期間においては最も検出頻度が高かった。このユニバーサルプライマーではEnterovirus、Coxsackievirus及びEchovirus等が検出可能であるが、今後、遺伝子解析を含め、詳細な分子疫学解析を進めていく。 次に検出率の高かったAdVは、その遺伝子型によって様々な症状を起こすことが知られている。しかし、BLAST検索の結果、今回検出された株はすべてtype41であり、主に急性胃腸炎の原因として考えられている遺伝子型であった。しかし、検出された遺伝子領域は株間での保存性が高く、分子疫学解析には不向きであるため、詳細な解析が行えていない。その為、今回得られた結果をもとに、新たな遺伝子領域の増幅を試みると共に、脳炎との関連性を検討する必要があると考える。 これまでに、HHV-6 variant Aの流行は、アフリカ地域においては、しばしば確認されているが、ヨーロッパや北アメリカでは非常に稀であることが知られている。しかし、国内での流行状況については不明な点が多く、平成7以降に収集・保管された検体についても同様に調査を進め、疫学情報を集積する。 今回の研究課題とは別に、アジア諸国におけるウイルス性脳炎についても調査を行っている。この研究課題では、RT-PCR法では原因究明が困難であった原因不明脳炎検体をもちいて、既に次世代シークエンサーによるde novo解析を行い、Multi-BLAST検索が終了している。これらの手技や解析結果をもとに、今後、本研究課題においても新たな脳炎の原因ウイルスについて検索する予定である。検体数が多いため、当初予定していた核酸抽出作業と臨床所見のデータ化を遂行する為、核酸抽出等で作業補助が必要な場合は人件費として予算を計上し、研究計画の完遂に努める。
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