2015 Fiscal Year Research-status Report
大分県における過去25年間の小児急性脳炎-脳脊髄液からの起因ウイルスの網羅的検索
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26860418
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
松本 昂 大分大学, 医学部, 特任助教 (50609667)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 小児急性脳炎 / ウイルス性脳炎 / 大分県 / 原因不明脳炎 / 遺伝子診断 / 分子疫学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、大分県内の小児急性脳炎患者から収集された脳脊髄液を用いて、その流行パターンを解明することを研究目的とした。これまでに、合計405検体の小児患者脳脊髄液からRNA及びDNAを抽出し、患者の臨床データを収集、データ化した。その後、同一属内のウイルスが複数検出可能な既知のユニバーサルPCRによって各種ウイルスの検出を試み、ダイレクトシークエンス法によって塩基配列を決定し、分子疫学解析を行った。 Human adenovirusのhexon遺伝子領域の部分配列を用いて分子疫学解析を行い、大分県内で流行したと予想されるHuman adenovirus type 41を同定した。DNAポリメラーゼ領域部分配列を用いた分子疫学解析からHuman herpesvirus-6を3例同定し、より神経病原性の強いvariant Aであることが明らかとなった。その他、Human bocavirus 1が1例検出された。特に、エンテロウイルス属検出用プライマーで検出された19例について、VP4遺伝子領域の塩基配列を決定した。BLAST検索を実施した結果、19例全てがEchovirusであった。このうち13株はEchovirus type 9であり、これらの相同性は90-97%であった。その他、Echovirus type 14が2例、Echovirus type 3、11および20が1例ずつ検出された。系統樹解析の結果、Echovirus type9はこれまでに愛媛県もしくは兵庫県の患者から検出された株と非常に近似していた。Echovirusは新生児および小児において急性熱性疾患の主な原因と考えられており、多くの場合、無菌性髄膜炎が主症状として認められており、全身性疾患を引き起こすことが知られている。その為、このEchovirusは、大分県内で流行する小児原因不明脳炎の一因である可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H27年度の研究実施計画では、1988年~1998年に大分こども病院で収集・保管された小児急性脳炎患者脳脊髄液からのRT-PCR法による脳炎起因ウイルスの検索、及び分子疫学解析を行う計画であった。1993年~1995年までの患者検体からの核酸抽出、RT-PCR法による脳炎起因ウイルスの検索、分子疫学解析および臨床所見のデータ化が完了した。一方で、当初計画していたよりも多くの検体が保管されていたこと、過去の患者情報が紙媒体で保存されていたことにより、核酸抽出作業と臨床所見のデータ化が完了できていない。この対策として、H26年度には核酸抽出作業を補助する実験補助員を雇用し改善を図ったが、H28年度も実験補助員を雇用し、これらの問題に対処する予定である。臨床データの収集については、患者年齢、体重、性別に情報を絞って収集し、作業の効率化を図るなど対策を講じる。これまでの研究結果から、一部のウイルスについて流行状況を把握することができた。今後は検出率が高かったウイルスについて重点的に調査を進めることができ、研究実施計画が効率的に進められることが予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
今回、検出された各ウイルスの国内での流行状況、特に分子疫学的特徴については不明な点が多く、H27年以降も残りの検体について調査を進め、解析結果を集積する。また、核酸抽出作業と臨床所見のデータ化を遂行する。当初予想したよりも検体数が多く、核酸抽出等で作業補助が必要な場合は人件費として予算を計上し、研究計画の完遂に努める。 これまでの研究結果において、EnteroviridaeのVP4遺伝子領域を標的としたユニバーサルPCRによる検出頻度が最も高かった。このユニバーサルPCRは、その他EnterovirusおよびCoxsackievirusが検出可能であり汎用性が高い。しかし、今後、Echovirusについて詳細な分子疫学解析をするためには、Echovirusの遺伝子型分類に頻繁に用いられているVP1遺伝子領域を標的とした既知のプライマーを用いる必要がある。 一方で、今回用いたRT-PCR法では原因究明が困難であった症例も多数存在した。これら検体については、次世代シークエンサーを用いた解析を検討しており、既知のウイルスデータベースを基にしたMulti-BLAST検索が可能である。
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