2014 Fiscal Year Research-status Report
身元不明死体の復顔を目的とした顔貌と口腔内事象の視覚的癒合復元システムの開発
Project/Area Number |
26860469
|
Research Institution | Tsurumi University |
Principal Investigator |
勝村 聖子 鶴見大学, 歯学部, 講師 (50410048)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 個人識別 / CT3次元再構築 / 歯科所見 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、主として金属修復物による障害陰影の影響の回避法について調べた。口腔内の金属修復物の有無や程度が異なる標本頭蓋骨を資料として、CT画像から3次元再構築したモデルにおいて解剖学計測値を測定し、骨における実寸値を参照に、CT3次元再構築画像の再現精度を評価した。同時に、障害陰影が発生する規模や領域の詳細を特定することで、法医学的実務性を確認した。 特に金属修復物によりCT3次元再構築画像に障害陰影が生じる場合では、歯列の視覚的情報は別途確保する必要がある。これまで申請者らは歯列の印象採得を行うことで獲得した歯列模型から、歯列サーフェース情報を獲得してきた。しかし、身元確認が必要となるご遺体においては、種々の要因により、開口が困難であったり、軟組織が脱落するなど、印象採得が難しいケースも多い。そこで印象採得に替わる歯科所見の3次元的採取法として口腔内スキャナーによる歯列3次元情報の獲得に関する有用性を検討した。口腔内スキャナーはCAD/CAM技術の発展とともに高い精度が認められており、印象採得・作業模型制作・サーフェース情報採取といった過程を省略して獲得できる歯列情報という点で、期待すべきところは大きい。口腔内スキャナーから獲得した歯列の3次元情報とCT3次元モデルの統合法の確立やその精度検証についても実施した。さらに、CT画像から得られるサーフェースデータとボリュームデータについて、両データの同一画像上での同時描記法について模索した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していたCT3次元再構築画像の再現精度について、ヘリカルCTおよびコーンビームCTについて検討し、それぞれの実務性について評価した。コーンビームCTは顎口腔領域に特化するとされる一方で、CT値を持たないため、その再現精度を正確に評価することは困難であった。今回その精度を評価し、ヘリカルCTと同等以上の再現精度が確認された。その結果については現在、論文執筆中である。 また口腔内スキャナーによる歯列3次元形状計測によるデータをCT3次元画像に合成する方法についても評価した。これまで申請者らが報告してきた「高精度3次元再構築モデル」は、遺体の歯列の印象採得により制作した作業模型の表面情報を獲得し、それをCT3次元画像の歯列部分に置換するというものであったが、これには操作の煩雑さや専門的知識の必要性といった課題が残っていた。それに対し、口腔内スキャナーによる歯列3次元形状計測では、「高精度3次元再構築モデル」で再現が困難であった歯根露出形態や根面齲蝕、歯槽骨の形態などの詳細まで再現可能であり、個人識別に繋がる歯科所見の再現が期待できる結果が得られた。これについては、日本法歯科医学会にて発表した。 さらに、CT画像から得られるサーフェースデータとボリュームデータの同一画面描記への模索として、両者データ統合処理が可能な「顔貌データと口腔データの融合画像ソフトウェア」の開発に至った。
|
Strategy for Future Research Activity |
CT画像は、無限大の情報を担保できるとされる一方、申請者らがこれまで精査してきた結果からは、口内法X線写真と同等の詳細所見を得るまでの有用性は認められていない。そこで今後は、歯列形態の高精度な復元に加え、その顎骨内に含まれる埋伏歯や根の形態、根管治療などの詳細な歯科所見についても同一画面上に同時展開することを目標とする。その背景には、遺体の歯科情報と、該当者と思われる人物の生前撮影レントゲン写真との照合作業がある。一般に、身元不明死体は該当者の発見に長期期間を要する場合も多い。遺体を荼毘に付した後であっても該当者の捜索により提供された生前レントゲン写真を有効活用できるよう、その実務性を備えたものに展開したい。 続いて、CT画像上での軟組織、特に筋肉抽出について検討する。咀嚼筋や表情筋について、解剖学的観点を踏まえながら画像上で単位抽出していき、画像上での復顔法における顔貌形態の復元について検討を進め、さらにはビジュアライゼーション化を含めて、同一画像上での高度な再構築法を検討する。遺体情報から得られる生前顔貌や口腔内、特に本来の歯の色、金属や種々の治療痕、歯肉形態について画像上で再現し、スーパーインポーズ法や復顔法に繋がる新しいシステムの確立に努めたい。また将来的には、生前から死後に至るまでの時間的経過軸を加え、加齢的変化や被害者が受けた損傷など、硬組織や軟組織の変遷を画像上で3次元的に復元することを視野に入れたい。
|
Causes of Carryover |
平成26年度の「顔貌データと口腔データの融合画像ソフトウェア」の開発については、当初予定していた打ち合わせ等の経費を削減できた。また当初、各学会等に参加して情報収集に務める予定であったが、本研究課題に関係すると思われる学会内容ではなかったため、参加を見送ったものがあった。そのため予定金額を下回る執行額となった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は開発したソフトをより法医的な実務内容に即する内容に強化することを目的に、処理速度の構造と活用方法について検討する。さらに3次元再構築情報のビジュアライゼーション化を進めていきたい。そのためにはソフト内容の充実と改変が必須であり、これについては引き続き、企業からの協力を仰ぐことを予定している。 また本研究の集大成として、平成27年度には学会発表や論文執筆などを通して、研究成果の報告を進めていきたい。その上で必要となる専門知識の提供や、データ整理への費用としたい。近年急速に発達している医用工学手法について学び、法医学領域に有益となる情報を担保するとともに、今後起こりえる大規模災害なども見据え、身元不明死体の個人識別など、社会的一助と成るよう、本研究成果を踏まえ、知識を発展させていきたい。
|