2014 Fiscal Year Research-status Report
上皮間葉連関を焦点とした肺発生での上皮Ptenの機能解析
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26860610
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
三浦 綾子 宮崎大学, 医学部, 研究員 (70710903)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 肺発生 / 肺上皮Pten |
Outline of Annual Research Achievements |
人類を脅かす疾患の中で最も多数を占める疾患である原発性肺癌は、日本人の癌死の1位であり、その発症機序の解明は喫緊の課題である。原発性肺癌の約9 割は気管支・細気管支・肺胞上皮に由来するとされ、発症機序は気管・気管支上皮細胞の分化機構と密接に関与していると考えられる。PI3K/Akt 経路を負に制御する癌抑制遺伝子であるPTEN(Phosphatase and Tensin homolog Deleted on chromosome Ten)はp53 と同様に現在世界的に注目されている癌抑制遺伝子である。肺発生におけるPten の役割に関して、肺上皮Pten 欠損マウスでの組織学的、形態学的報告はほとんどなく、肺発生におけるPten の恒常性維持を解析することで様々な肺疾患の病態解明と治療薬開発に繋がる臨床応用への研究展開も期待できる。 本研究は、上皮Ptenの役割を解明し、肺胞上皮細胞(alveolar epithelial cells; AECs)分化制御・AECsバリアー保持・AECsバリアー再構築を焦点とする、肺発生における上皮・間葉系細胞の分化・増殖に関与する遺伝子群と上皮Pten 発現との連関を明らかにすることを目的とする。 AEC 特異的Pten 欠損マウス(SOPten△/△マウス)と野生型マウスの胎生肺組織を用いたDNA microarray 解析により、神経内分泌細胞において発現するCalca や、Clara 細胞のScgb1a1、杯細胞のAgr2 の発現上昇、Ⅱ型肺胞上皮細胞において発現するSftpa の発現減少を見いだした。さらに、上皮分画のmRNA発現は、Ⅱ型肺胞上皮細胞Sftpa1の発現減少、分化マーカーであるHes1の発現上昇を確認した。以上の結果から、Pten欠損マウスに分化は細気管支前駆体側へシフトしており、肺胞上皮の分化異常が重篤であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
AEC 特異的Pten 欠損マウス(SOPten△/△マウス)と野生型マウスの胎生肺組織(E18.5)を用いたDNAmicroarray 解析により、神経内分泌細胞において発現するCalca や、Clara 細胞のScgb1a1、杯細胞のAgr2 の発現上昇、Ⅱ型肺胞上皮細胞のSftpa の発現減少を確認した。E18.5マウスの肺をAutoMaxにより上皮に分画し、予備実験にて得られたこれらの上皮分化に関与する遺伝子の発現を定量PCR により解析した。さらに、肺上皮分化を誘導する因子(Wnt/β-catenin、Hes1、Mash1、Notch、shh)の発現の解析を進めている。また、Ⅱ型肺胞上皮(Sftpc)、Ⅰ型肺胞上皮(T1α)、神経内分泌細胞(CGRP)、Clara 細胞(CC10)、線毛上皮細胞(Foxj1)、杯細胞(Muc5AC)の発現レベルを免疫染色により解析した。これらの解析により、Pten欠損マウス肺の肺胞上皮の分化異常(Ⅱ型肺胞上皮の減少、Sftpc/Ki67二重陽性細胞の減少、Ⅰ型肺胞上皮の増加)と神経内分泌細胞、Clara細胞、杯細胞の増加を確認した。以上の結果から、Pten欠損マウスに分化は細気管支前駆体側へシフトしており、肺胞上皮の分化異常が重篤であることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) explant culture による間葉系細胞増殖に関与する分泌型シグナル分子の同定 E18.5 のSOPten△/△マウスと野生型マウス胎児肺を摘出し、組織培養を行う。既に同定している分泌型シグナル分子に対応するアンタゴニストを投与し、肺胞壁の距離を測定することで、AEC 特異的Pten 欠損マウスでの間葉系細胞増殖に対する責任分子を同定する。 (2) 気管支・肺胞形成機構の段階的評価 これまでに、線維芽細胞増殖因子10(FGF10)とその受容体FGF2 が肺発達後期における肺胞形成や分岐に関与するという報告がある。時間的・空間的な肺形成過程を検討するために、E12.5、E14.5、E18.5、P0 のSOPten△/△マウスと野生型マウス胎児胚を摘出し、HE 染色により気管支・肺胞形成の組織学的評価を行う。また、肺間葉の成長に関与するFGF9、FGF10、FGFR2、Spry2 の発現動態を免疫染色にて評価する。 (3) 肺発生細胞分裂時の紡錘体形成機構の解析 予備実験でのSOPten△/△マウスと野生型マウスの肺組織を用いたDNA microarrey により、細胞分裂に関与するCdkn1b、Cdkn3、及び紡錘体チェックポイントに関与するBub1、Pttg1、Sgol1、Sgol2、Cenpe の発現減少を確認した。染色体の安定な維持には、細胞分裂期における染色体の均等な分配が必須であり、これを制御する分ネットワークの代表的な機構として、紡錘体チェックポイントが存在する。紡錘体チェックポイントは、すべての染色体で双方向性結合が成立するまで分裂後期への移行を抑える機構である。これはMad1, Mad2, Bub1, Bub3, BubR1 といった分子が協同して、分裂後期への移行に重要であるAPC/C (anaphase promoting complex/cyclosome)の活性化を抑制することにより制御されている。細胞分裂中期における紡錘体チェックポイントMad1、Mad2 やBub1、Bub3、BubR1の発現動態をRNA レベルにて定量する。さらに、星状体と紡錘体形成の形態学的評価を電子顕微鏡を用いて行う。
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Causes of Carryover |
平成26年4月から12月まで産後休暇および育児休暇を取得し、平成27年1月より職務復帰したため、平成26年度の予算を3ヶ月の実験でのみ使用した。さらに、1年間の補助事業期間の延長を行ったため、平成28年度中までに使用する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
産後休暇および育児休暇により、学会発表に参加できていないため平成27年度中に発表する。さらには、平成27年度中に論文投稿し、リバイス実験に必要な経費として使用する。
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Remarks |
補助事業期間延長承認:平成27年2月20日
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