2014 Fiscal Year Research-status Report
脂質代謝経路への介入による新規の自然炎症制御方法の確立
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26860699
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
唐澤 直義 自治医科大学, 医学部, 助教 (60631893)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 炎症 / 脂肪酸組成 / 飽和脂肪酸 / マクロファージ |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、 インスリン抵抗性や動脈硬化に共通の病態として自然炎症の存在が明らかになってきた。 特に、NLRP3インフラマソームはカスパーゼ1の活性化により炎症性サイトカインIL-1betaの産生を制御する分子複合体であるが、パルミチン酸などの脂質分子によって活性化され、代謝性疾患の発症に関わる。 本研究では, 危険シグナル分子の代謝経路に介入することが、インフラマソームの活性制御に有効であるとの着想の下、 パルミチン酸によって活性化されるインフラマソームについて、その危険シグナル分子の実体と活性調節経路を明らかにしようと試みた。 パルミチン酸は飽和脂肪酸の一種として知られており、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のバランスの崩れが脂肪毒性を発揮することが知られている。そこで、一価の不飽和脂肪酸であるオレイン酸の共処理がマクロファージにおけるパルミチン酸によるインフラマソーム活性化を抑制するか検証した。その結果、オレイン酸の用量依存的にパルミチン酸によるインフラマソーム活性化が抑制され、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の比率がインフラマソーム活性に重要であることが示唆された。一方、脂肪酸は細胞内に取り込まれた後、脂肪酸Acyl-CoAに変換された後、代謝される。そこで、飽和脂肪酸Acyl-CoAの増加がインフラマソーム活性化に重要であるとの仮説の下、Acyl-CoA合成阻害剤であるTriacsin Cによりパルミチン酸によるインフラマソーム活性化が抑制されるか検証した。しかしながら、Acyl-CoA合成阻害はむしろ、パルミチン酸によるインフラマソーム活性化を増悪させた。これらの結果から脂肪酸Acyl-CoAはインフラマソーム活性化に関与せず、細胞内の遊離脂肪酸がインフラマソーム活性化を引き起こすことが示唆された。今後、この機序を解析することで、飽和脂肪酸による炎症惹起機序の解明を目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の仮説ではパルミチン酸により引き起こされるインフラマソーム活性化の原因は飽和脂肪酸Acyl-CoAの代謝産物にあると考えており、その代謝酵素群を標的とした介入によりインフラマソーム活性化が抑制されるものと予測していた。しかしながら、本年度の研究により、パルミチン酸によるインフラマソーム活性化の原因が細胞内の遊離脂肪酸の増加にあることが明らかになった。当初の想定とは異なったものの、インフラマソーム活性化の原因となる危険シグナル分子を特定するという研究目的は達成できている。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞内の遊離飽和脂肪酸比率の増加がインフラマソーム活性化を引き起こすとの結果を得たことから、その分子機序を明らかにする。インフラマソームの活性化についてそのメカニズムとして、①カリウムイオンの流出、②ライソソームの傷害、③ミトコンドリア由来の活性酸素種産生などの細胞障害が知られている。そこで、マクロファージに対するパルミチン酸刺激がこれらの細胞機能の異常を引き起こすかについて検証する。また、オレイン酸の共処理による細胞内の不飽和脂肪酸の増加により、これらの細胞障害が改善するかを明らかにする。さらに、個体レベルにおいて飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸比のバランスの崩れがインフラマソームの活性化を介して、炎症、代謝性疾患の発症に関与するかをマウスを用いた動物モデルにより明らかにする。具体的には、高飽和脂肪酸食の負荷により脂肪組織マクロファージのインフラマソームが活性化し、インスリン抵抗性が引き起こされるか、また、食餌への不飽和脂肪酸添加により、これらが改善されるか検証する。
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Causes of Carryover |
当初の計画ではセラミド合成酵素など、脂肪酸Acyl-CoAの代謝酵素をsiRNAによりノックダウンすることで、インフラマソームを活性化する脂質代謝産物の候補を絞り込む予定であった。しかしながら、その予備検討として行なった、脂肪酸Acyl-CoA合成酵素阻害剤であるTriacsinCを用いた検討により、遊離飽和脂肪酸を危険シグナル分子として同定することができた。これにより、予定していたsiRNAを作製しなかったため、本年度の必要経費については少なく計上した。 一方、遊離脂肪酸がインフラマソームを活性化する機序について新たに次年度に解析するとともに、食餌由来の脂肪酸の飽和/不飽和比が個体レベルでの代謝臓器におけるインフラマソーム活性化に及ぼす影響についても検討する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
遊離飽和脂肪酸がインフラマソームを活性化する機序として①カリウムイオンの流出、②ライソソームの傷害、③ミトコンドリア由来の活性酸素種産生などの細胞機能についての評価を行う。これらはマクロファージへのパルミチン酸処理時、及びパルミチン酸とオレイン酸共処理時にライソソーム活性やミトコンドリア活性酸素種などを染色する蛍光プローブを用いて評価することから、これらの細胞生物学試薬を計上する。また、食餌由来の脂肪酸の飽和/不飽和の比が炎症惹起に及ぼす影響を検討するため、それぞれの含有比を調整した特殊飼料を作製、マウスに負荷し、その影響を解析する。このことから、実験動物であるマウスとその飼料に助成を使用する。
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