2015 Fiscal Year Research-status Report
抗甲状腺薬によるNIS発現誘導作用と甲状腺機能抑制以外の作用の全容の解明
Project/Area Number |
26860713
|
Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
須江 麻里子 東邦大学, 医学部, 助教 (50439965)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 甲状腺機能 / 抗甲状腺薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
甲状腺濾胞細胞の基底膜側にあるsodium iodide symporter(NIS)は甲状腺ホルモン合成の最初の段階を司るヨード輸送体であり、甲状腺自己免疫生疾患や甲状腺がんなどに関与するなど様々な役割が明らかになっている。さらに、研究代表者等の研究により自己免疫性甲状腺疾患治療薬である6-n-propyl-2-thiouracil(PTU) がNIS誘導作用を有する事が明らかになってきた。本研究ではそのNIS誘導機序を解明し、ヒト甲状腺細胞における抗甲状腺薬の薬理作用や自己免疫性甲状腺疾患の病態抑制機構を見出すことを目的としている。平成26年度は、ラット甲状腺FRTL-5細胞を用いDNAマイクロアレイによって網羅的に解析したPTU/MMI刺激下で変動する遺伝子やタンパク分析をもとに、抗甲状腺薬が影響を及ぼすシグナル伝達経路を絞り込み、シグナル伝達経路の主要タンパクおよびそのリン酸化の変動を解析した。その結果、抗甲状腺薬であるPTUおよびMMIが、甲状腺ホルモン前駆体であるモノヨードタイロシン(MIT)およびヂヨードタイロシン(DIT)の脱ヨード化に関わる酵素であり甲状腺ホルモン合成に重要な役割を果たすとともに、その遺伝子異常が先天性甲状腺機能低下症に関与している可能性があるDEHAL1の発現調節に関与していることがわかった。さらに、抗甲状腺薬によるDEHAL1の発現調節は甲状腺刺激因子TSHの存在および抗甲状腺薬の作用時間による調節を受けており、中でもPTUはTSH存在下でのみDEHAL1の遺伝子発現抑制作用を有する事が明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで明らかになっていない抗甲状腺薬によるDEHAL1遺伝子発現抑制を介しての甲状腺ホルモン合成抑制機序を見いだす事ができた可能性が高い。また、DEHAL1遺伝子はTSH存在下ではPTUおよびMMI双方で発現が抑制されるのに対し、PTUによる発現抑制作用はTSH非存在下では見られなかった。この成果は抗甲状腺薬の薬理作用を解明する上で大きな進歩であるが、特にPTUとMMIの甲状腺機能抑制過程、特にコロイド再吸収やヨード再利用への異なる作用機序や、TSHとの相互作用の差異、さらには甲状腺機能抑制以外の作用など、より詳細な設定での実験を繰り返し、mRNAやタンパク発現、さらに放射性ヨード取り込み能を検証する必要がある。 今後その他の甲状腺機能遺伝子への作用、今後さらに抗甲状腺薬濃度変化がもたらす発現調節作用への影響や、重要な甲状腺濾胞機能調節因子であるTSHとの相互作用の及ぼす影響など、より詳細な設定での実験を繰り返し、mRNAやタンパク発現を検証する必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は抗甲状腺薬によるDEHAL1を含めた脱ヨードに関わる遺伝子、その他甲状腺ホルモンの放出過程に関与する遺伝子について検討する。さらに放射性ヨードを用いて実際の細胞のヨード取り込み能力を検証する。これまでの実験では実際の自己免疫性甲状腺疾患の病態に準じた環境を、培地内TSH濃度を経時的に変化させる事で再現し検討を行った。本年度は、その状況下でも抗甲状腺薬によるDEHAL1を介したこれらの遺伝子発現調節作用が保持されるかを、培地内TSH濃度を経時的に変化させ検討を行う。さらに、ラットFRTL5細胞において示されたこれらの抗甲状腺薬による遺伝子発現調節作用と同薬のヒト甲状腺細胞に対しての作用を、ヒト甲状腺初代培養を用いて比較検討する。
具体的には、バセドウ病患者から採取した甲状腺細胞を、基礎疾患や使用していた薬剤の影響を排除できる事が明らかになっている培地にて5日間以上培養したのち、TSH存在下の生体内に類似した環境でPTU/MMIを作用させ、これまでの研究で明らかになった抗甲状腺薬のNISおよびDEHAL1を介した発現調節作用を解析する。
|
Causes of Carryover |
次年度はヒト甲状腺初代培養および甲状腺ヨード取り込み実験を行う予定であり、試薬類やディスポーサブル製品の購入が必要である。また、中でも甲状腺ヨード取り込み能の検証のため125I放射性アイソトープを用いた実験を行う事を予定しており、その購入費として次年度使用額を必要とする。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
甲状腺ヨード取り込み検証 ヒト全遺伝子型DNAチップ解析、細胞培養、RNAおよびタンパクの解析用試薬類、培養やディスポーザブル製品類、その他消耗品で使用予定である。
|
Research Products
(1 results)