2014 Fiscal Year Research-status Report
家族性血小板減少症を背景に発症したT細胞性急性リンパ性白血病患者の全ゲノム解析
Project/Area Number |
26860788
|
Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
渡邊 敦 山梨大学, 総合研究部, 診療助教 (30610498)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | T細胞型急性リンパ性白血病 / 家族性血小板減少症 / 次世代シーケンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
小児の急性リンパ性白血病(ALL)において、遺伝的背景を持って発症する例は極めて稀である。既知の家族性血小板減少症(FPD)については、壮年期以降に急性骨髄性白血病を発症し、RUNX1遺伝子変異を有することが報告されている。我々は、血小板減少症と濃厚な白血病の家族歴を有し、11歳でT細胞性ALLを発症した稀有な症例を経験した。 そこで本研究では、次世代シーケンサーを用いて全エクソンシーケンス解析を行うことで、血小板減少症と白血病の背景因子となった遺伝子変異を同定し、そのALL全般における頻度と予後への影響を含めた臨床的意義を明らかにする。さらに、同定された遺伝子変異の生化学的・細胞生物学的な解析を行うとともに、患児の体細胞から樹立したiPS細胞を用いて造血能を解析し、本家系における病態生理を明らかにして小児白血病の発症機序の解明することを目指す。 この目的のために、本年度は患児の白血病細胞、患児の体細胞、家族性血小板減少を有し、白血病は未発症である妹の体細胞、父親の体細胞の全エクソンシーケンス解析を行った。なお、母親は急性骨髄性白血病のため死亡しており、解析不能である。解析結果を用いて、家族性血小板減少症に必須であると考えられる「患児および妹に存在し、父親に存在しない遺伝子変異」および、白血化に必須であったと考えられる「患児の体細胞に存在し、白血病細胞に存在しない遺伝子変異」を同定した。その結果、これまでにFPDの原因遺伝子として報告されていたRUNX1遺伝子変異は、どちらのカテゴリーに属する変異としても同定されなかった。 したがって、本研究を通してFPDおよびT細胞型ALLの発症メカニズムに極めて重要な未知の遺伝子が新規に同定できる可能性があり、解析をさらに進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
患児と妹、父親の体細胞および患児由来の芽球において、次世代シーケンサーによる全エクソンシーケンス解析を開始し、解析結果を得た。さらに、ヒトゲノム公共データベースと照合し、患児の体細胞と芽球および妹に存在し父親に存在しないindelをもつ遺伝子と、同様の条件を持つSNPを検索した。また、患児由来の芽球に存在し、患児の体細胞に存在しないindelをもつ遺伝子を検索した。その結果、既にFPDの原因遺伝子として報告されているRUNX1遺伝子は本症例のFPDおよびT細胞型ALLの発症とは直接関連していないことが明らかとなった。しかし、本年度は候補責任遺伝子の同定にまでは至らず、iPS細胞を用いた解析にまでは着手できていない。今回得た解析結果をもとに、FPDおよびT細胞型ALLの発症メカニズムに重要な遺伝子が新規に同定できる可能性があり、引き続き全エクソンシーケンス解析結果について検討を進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
1. 患児の体細胞と芽球および妹に存在し父親に存在しないindelをもつ遺伝子のなかで、同様の条件を持つSNPを検索し、two-hit theoryに基づく血小板造血異常や腫瘍化が起こっている可能性を解析する。 2. 患児の体細胞と芽球および妹に存在し父親に存在しないindelをもつ遺伝子のなかに、RUNX1を含む転写因子との相互作用を有する遺伝子が含まれている可能性について、これまでに報告されているFPDの原因遺伝子と対比して検討する。 3. 体細胞と比較して芽球が獲得したindelの数が一般的なALLでの報告と比べて本症例において特に増加しているかどうかを確認することで、遺伝子脆弱性に関連する原因遺伝子の関与を解析する。 4. 患児骨髄幹細胞由来のiPS細胞を作成し、既に確立されているRUNX1遺伝子変異を有するFPD家系由来のiPS細胞と比較することで、本症例に特徴的なT細胞型ALLの発症に強く関連する遺伝子変異を明確にする。 5. 1~4までの過程で得られた候補遺伝子について、Tet-On systemを利用した発現ベクターを白血病細胞株に導入し、発現する変異タンパク質を機能的に解析することで、FPDおよびT細胞型ALLの発症に関与する責任遺伝子を明らかにする。
|
Causes of Carryover |
本年度は次世代シーケンサーによる解析結果までは得られたものの、候補遺伝子の同定にまでは至らず、iPS細胞を用いた解析にまでは着手できていなかったため、未使用金が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
患児骨髄幹細胞由来のiPS細胞を作成し、既に確立されているRUNX1遺伝子変異を有するFPD家系由来のiPS細胞と比較する。また今回の解析に基づくFPDおよびT細胞型ALLの候補責任遺伝子について、Tet-On systemを利用した発現ベクターを白血病細胞株に導入し、発現する変異タンパク質を機能的に解析する。責任遺伝子が明らかになった場合、正常造血と当科で豊富に有する白血病細胞株における発現パターンを解析する。同様の解析を東京小児がん研究グループにおいて保存された検体に対しても申請し、遺伝子変異の頻度や変異陽性例の予後について臨床像の解析を進める。以上の目的を達成するため、次年度使用額は細胞培養やiPS細胞の作成費用、および責任遺伝子の発現をPCR法などで確認するための費用に充てる。
|