2014 Fiscal Year Research-status Report
iPS細胞を用いた神経堤症モデルの作製及び神経堤症に対する創薬を目指した病態解明
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26860823
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
奥野 博庸 慶應義塾大学, 医学部, 特任助教 (70445310)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 神経堤細胞 / CHARGE症候群 / CHD7 / 遊走 |
Outline of Annual Research Achievements |
目的:神経堤細胞は第4の胚葉と呼ばれ、多くの器官の形成に重要な役割を果たしている。iPS 細胞を用いたヒト神経堤症に関する研究を通して、神経堤細胞の異常のために視覚、聴覚、嗅覚などに障害を持つ児の治療に役立ちたいと考える。平成26年度は神経堤症の1つであるCHARGE症候群の病態解明を行うために、iPS細胞由来神経堤細胞を用いた患者モデルを試験管内で作成した。 成果:我々はすでにCHARGE症候群由来iPS細胞の作成、患者由来iPS細胞より神経堤細胞の作成に成功している。1)遺伝子発現解析:患者由来iPS細胞/神経堤細胞および健常人由来iPS細胞/神経堤細胞を用いてアレイ解析を行った。iPS細胞よりも神経堤細胞で、健常人とCHARGE症候群の差が顕著であった。また細胞遊走に関わる遺伝子に差を多く認めた。2)遊走能解析:健常人iPS細胞由来神経堤細胞とCHARGE症候群iPS細胞由来神経堤細胞それぞれを、小孔(8um)が空いたウェル(上層)に播種し、培地に誘因物質を含む下層のウェルへと細胞が遊走する様子を経時的に調べた。CHARGE症候群由来神経堤細胞は遊走速度、遊走個数の両面において健常人由来神経堤細胞より有意に劣っていた。3)タイムラプスを用いた観察:健常人由来神経堤細胞および患者由来神経堤細胞を別々の色で蛍光ラベル後に混合した。これらを低密度でチェンバーに播種し、経時的に顕微鏡で動きを観察した。患者1ライン、コントロール1ラインを用いて、細胞の動く速度を観察した。細胞の動く速度を画像解析ソフト(Image J)により数値化し、患者由来神経堤細胞で速度の低下が見られた。これより、患者由来神経堤細胞では動きが悪いことがわかった。また、混合した細胞集団において患者由来神経堤細胞に表現型を認めたことより、細胞自立的な遊走障害があることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在用いている神経堤細胞の誘導方法は、iPS細胞より神経堤細胞への誘導効率および収量がよく、期間が10-12日間と比較的短期間で作成することができる。そのため、予定したassayに合わせて、細胞調整をすることができることが大きなポイントと考える。 1)遺伝子発現解析(達成100%):CHARGE症候群由来神経堤細胞で遊走に関する遺伝子発現の異常が示唆された。これまでに臨床症状よりCHARGE症候群と神経堤細胞の関連が示唆されていたが、今回の発現解析はそれを裏付ける結果となった。今年度は、多面的な解析をすすめて、CHRAGE症候群の病態を表すカギとなる遺伝子を絞りこみたいと考える。 2)xCelligence解析(達成度100%):健常人由来神経堤細胞(2ライン/2人)、CHARGE症候群由来神経堤細胞(5ライン/2人)を用いて解析を行い、CHARGE症候群患者群に有意な遊走障害を認めた。試験管内でCHARGE症候群病態モデルの作成に成功した。 3)タイムラプス解析(達成度100%):健常人iPS細胞由来神経堤細胞および患者iPS細胞由来神経堤細胞を別々の蛍光タンパクで色分けし、混ぜ合わせたものを経時観察した。患者由来神経堤細胞に運動障害が見られたことは、細胞自立的な影響による遊走障害が生じていることを示している。今後の解析において、健常人群および患者群を混合したものを同様に解析し、同じ条件での遊走解析を試みる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究より、CHARGE症候群由来神経堤細胞に遊走障害があることが分かった。 <試験管内における遊走能解析> 今年度は、誘導した神経堤細胞を用いて、遊走を多面的に解析したいと考える。昨年度は、xCelligenceを用いて遊走能について検討を行った。今年度は遊走の方向性ついて解析をする予定である。具体的には、創傷癒合アッセイを用いた解析を試みる。健常人由来神経堤細胞および患者由来神経堤細胞を蛍光タンパクにより色分けし、混合した細胞により単層を作成する。ここに創傷をつくり、細胞が空隙部に遊走する際の方向性をゴルジ体染色により定量化する。 <生体内における遊走能アッセイ>蛍光タンパクによりラベルした神経堤細胞をもちいて、健常人由来、およびCHARGE由来神経堤細胞を色分けする。これらを混合してできた細胞シートを作成する。神経堤細胞が出現するHHstage8-12 chick-embryo の神経管に、症状が関与する頭部に移植する。移植する時期、移植する部位について、検討を行う。移植後の遊走を観察する時期について、まずは6、40、64時間後に観察を行う予定である。CHARGE 症候群患者由来の神経堤細胞は、健常者由来の神経堤細胞に比べて、遊走距離が短いことが期待される。この系を用いて、我々が用いた試験管内における細胞遊走障害が、生体内においても病態を模倣することが示せると考える。 <遺伝子発現解析>昨年度におこなった発現アレイデータより、健常人由来神経堤細胞およびCHARGE症候群由来神経堤細胞を比較し、両群で有意に発現レベルが異なる遺伝子を抽出する。
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Causes of Carryover |
- 平成27年1月に外部発注による解析をで提出し、解析結果および納品がされるまでに4ヶ月かかったため、平成27年度の交付額より支払うことになったため。 - 細胞のコンタミにより、解析するための細胞数を回収するのに、予定よりも時間を要した。そのため、当初には平成26年度に行う予定であった解析用具および試薬を平成27年度に購入することになったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
- 昨年度に外部発注し、納品の都合で今年度支払いとなった解析が約20万円である。今年度の資金より支払いを行う予定である。 - 昨年度に細胞調整の不具合で遅れていた解析について、現在細胞調整が順次進んでおり、今年度に解析を行う目処が立っている。繰り越した資金を用いて、昨年度に予定していた解析を終える予定である。
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