2015 Fiscal Year Research-status Report
Dravet症候群のiPS細胞モデルにおける治療標的の選定と創薬基盤研究
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26860833
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
田中 泰圭 福岡大学, てんかん分子病態研究所, ポスト・ドクター (50714466)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ドラベ症候群 / てんかん / iPS細胞 / TALEN / genome editing / 疾患モデル / SCN1A / GABA作動性神経 |
Outline of Annual Research Achievements |
てんかんの病態は長い間不明であったが、近年の分子生物学の発展に伴い、てんかんに関連した遺伝子異常が発見されるようになった。単一遺伝子の異常によるてんかんであれば、理論的にはその遺伝子異常を修復することにより、細胞レベルでの疾患関連表現型の妥当性を深めるとともに、細胞間での特性のバラつきによる差異を軽減することができる。生きている細胞の遺伝子を修復することは、かつては不可能であった。しかしながら、近年ではいくつかの革新的な分子生物学的技術により、それが可能となった。また、患者自身の細胞よりiPS細胞を作出し、そのiPS細胞から特定の神経細胞へ分化誘導することにより、従来では困難であった病変細胞を得ることでき、その病因や病態のメカニズムを研究することが可能となった。 ドラベ症候群は、ナトリウムチャネルをコードする遺伝子、SCN1Aの異常により引き起こされる、単一遺伝子異常に起因した難治性のてんかんである。今回、世界に先駆けて、このドラベ症候群の患者より樹立したiPS細胞から神経細胞へ分化誘導することに成功した。これにより、ドラベ症候群の分子病態を明らかにすることができた。前年度には、このiPS細胞を用いて、SCN1Aの遺伝子異常をTALEN法により修復することに成功した。今年度は、さらに健常人由来iPS細胞にSCN1Aの同遺伝子変異を導入し、アイソジェニックラインの作出に成功した。現在は、これらのアイソジェニックiPS細胞由来のGABA作動性神経細胞の神経活動を比較し、てんかんの病態が解析可能であるか電気生理学的に評価を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
信頼性の高い実験系を確立するために、アイソジェニックなiPS細胞の樹立に成功した。アイソジェニックなiPS細胞でドラベ症候群と健常対照を比較するため、健常対照iPS細胞にドラベ患者で発見されたSCN1A遺伝子異常をTALNE法によるゲノム編集システムを利用して導入することに成功した。これと相対して、ドラベ症候群から樹立したiPS細胞のSCN1A遺伝子異常をTALNE法によるゲノム編集システムを利用して修復することに成功しており、現在は樹立した細胞の全ゲノムを解析中である。 iPS細胞から神経幹細胞を経て成熟な神経細胞への分化誘導を行った。分化神経幹細胞の多くが免疫細胞化学的にFoxG1陽性およびNkx2.1陽性を示したことから、標的となるMGE由来の神経幹細胞へ誘導されたことが示された。系譜決定した神経幹細胞を最終分化のために数週間以上分化成熟培養を行い、神経細胞へ分化させたところ、神経細胞マーカーであるβIII-tubulinとNeuN発現を検出した。また、それらの細胞の大半がGABA陽性およびGAD65/67陽性を示し、MGE由来のGABA作動性の抑制性神経であることを確認した。GABA作動性神経のサブタイプを確認したところ、大半の細胞がCalbindin陽性とSomatostatin陽性を示し、CalretininとParvalbuminの発現は見られなかった。 分化誘導に成功したヒトiPS細胞由来のGABA作動性神経細胞において、より成熟度の高い細胞を選別するためにSCN1A発現細胞のレポーターを用いた。Nav1.1発現のGABA陽性な神経細胞を30-35日間培養した後、電流固定によるカレントクランプ法を用いて脱分極電流刺激を加えると、微弱ながら活動電位の応答を確認することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
未熟な神経細胞の活動電位の誘発不足を補うために、カリウム過多での培養条件による模擬てんかんを引き起し、神経細胞における活動電位の誘発の有無について電気生理学的検証を行う。カリウム濃度の増加に伴った活動電位の発生率に増加傾向(神経の異常興奮)が観察されれば、健常人由来の神経細胞とドラベ患者由来の神経細胞における病態を比較するうえで、有用な手段であることが示される。また、将来的な治療研究の基盤構築として、分化誘導した神経細胞を用いた薬剤評価にも着手する予定である。パッタクランプ法あるいは次世代微小電極アレイシステムなどを用いて神経細胞を活動電位の測定する。健常人とドラベ患者で見られる神経活動を差異を指標にし、認可医薬品の添加により神経活動の差異を軽減するような薬剤のスクリーニングに向けた基盤研究を行う。
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Causes of Carryover |
神経細胞への分化誘導を複数種の細胞で行う予定である。それらの神経細胞の分子生物学および免疫細胞化学的な特性解析を行う予定であり、さらには、細胞の電気生理学的な機能評価を行うにあたって、多くの神経細胞が必要であることが予想される。そのため、iPS細胞および神経細胞の培養と神経細胞への分化誘導に多くの費用が必要なため、前年度の研究費を今年度に繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度に繰り越した研究費は、iPS細胞および神経細胞の培養液および分化誘導試薬に使用する。また、分子生物学および免疫細胞化学的に、分化誘導した神経細胞を評価するための試薬や抗体等の購入に用いる計画である。
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