2015 Fiscal Year Research-status Report
胎児脳におけるヒストンアセチル化修飾を介した神経細胞分化制御機構の解析
Project/Area Number |
26860860
|
Research Institution | Research Institute, Osaka Medical Center for Maternal and Child Health |
Principal Investigator |
爪 麻美 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所), その他部局等, 研究員 (70711026)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | BETファミリータンパク質 / ヒストンアセチル化修飾 / 転写制御 / RNAポリメラーゼII / 幹細胞 / 胚盤胞 / Nanog / Oct3/4 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に得られた結果を基にして、平成27年度は、BETファミリータンパク質が持つ、ヒストンアセチル化修飾を読み取る機能を阻害した場合、幹細胞の増殖・維持や神経分化にどのような影響が見られるかについて明らかにするために、以下の解析を行い、結果を得た。 1) 前年度に確立したP19C6細胞培養系において、JQ1試薬 (BETファミリーのヒストンアセチル化修飾への結合を阻害する試薬) を培養液に添加し、細胞を培養後、免疫染色法にて発現を解析した。JQ1処理後、BETファミリーが特異的に結合するヒストンアセチル化修飾 (H4K12acなど) に関しては、未分化幹細胞および神経細胞ともに、特に差異は認められなかった。ところが、RNAポリメラーゼII (PolⅡ) の状態変化に関して、特に未分化幹細胞では、転写開始に関わるPolⅡC末端ドメインセリン5番目のリン酸化シグナル (PolⅡ pSer5) が核内で強く集積しており、その集積数も増加する傾向にあった。さらに、Oct3/4の発現低下も認められた。これらのことから、BETファミリータンパク質におけるヒストンアセチル化修飾の読み取り機能を阻害することで、未分化幹細胞の維持と関連する遺伝子の転写に影響が見られることが示唆された。 2) JQ1処理によって、未分化幹細胞に対する特異的な異常が認められたため、当初予定していた神経胚期の全胚培養に代えて、未分化幹細胞の解析や観察により適している胚盤胞期 (受精後3.5日目胚) の培養を立ち上げた。胚盤胞においても、JQ1処理後、ICMの核内でPolⅡ pSer5シグナルが集積し、特にICMの維持に関わるOct3/4やNanogの発現低下が認められた。これらの結果は、P19C6細胞で得られた結果とよく一致していた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に確立したP19C6細胞培養系と薬剤処理を組み合わせて行い、免疫組織化学法を用いた発現解析は順調に進めることができた。また、当初予定していたマウス胚の全胚培養は、材料をより発生段階の早い胚盤胞に変更したものの、胚の培養法は確立でき、発現解析を行うことができたため、おおむね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
BETファミリータンパク質が関与するヒストンアセチル化修飾は、どのような下流遺伝子の発現制御を介して、幹細胞の維持に関わっているのかを明らかにするために、以下の実験を行う。 材料は、今までの結果を考慮して、未分化な幹細胞を個体で解析するのに適しているマウスの胚盤胞 (受精後3.5日目胚) を用いる。BETファミリータンパク質は、ヒストンH4のアセチル化修飾に特異的に結合し、転写伸長に関与することが知られている。そこでまず、胚盤胞培養系を用いて、JQ1処理後、幹細胞の維持に関わるNanogやOct3/4の転写に影響が見られるかについて蛍光in situ ハイブリダイゼーション (FISH) 法を用いて、mRNA前駆体 (新生鎖mRNA) の発現を検討する。次に、どのような下流遺伝子の発現が転写制御されているかについて、網羅的に遺伝子のプロファイリングを行う。具体的には、JQ1処理群とコントロール群の胚盤胞をそれぞれ回収し、mRNAを抽出してマイクロアレイを行う。得られた結果から、大きく発現が変動した遺伝子については、in situ ハイブリダイゼーションを用いて発現解析を行う。さらに、PoIⅡC末端ドメインのセリンリン酸化状態の変化と、下流遺伝子の発現変動が一致するかについて、FISHと免疫染色の二重染色を行い検証する。また、JQ1が関与する転写の制御は、どのようなシスエレメントを介しているかについても検討する。 以上の研究結果を取りまとめ、国内学会または海外の学会において成果発表を行うとともに、論文として国際雑誌に投稿する。
|
Causes of Carryover |
幾つかの抗体やディスポーザブル製品は効率的に使用することができたため、次年度利用額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は引き続き、マウス購入費、抗体などの組織学用試薬、細胞培養用試薬、ディスポーザブル試薬、阻害剤などの生化学・分子生物学試薬の購入に加えて、FISH用の試薬購入費やマイクロアレイによる網羅的なデータ解析費、成果発表のための旅費等に使用する予定である。
|