2014 Fiscal Year Research-status Report
タンパク質合成系への作用からみたN-アセチルシステインの抗精神病作用機序の解明
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26860920
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
西川 宏美 金沢大学, 医学系, 研究員 (70534155)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 精神疾患 / 細胞内システィン / システィン-グルタミン酸交換体 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内システィンの量は、内在性抗酸化ストレス分子のうち、脳内で最も大量に存在するグルタチオンの合成に関して律速段階となりうる。従って、システィン-グルタミン酸交換体(xCT)の機能異常は、脳内グルタチオンの代謝及び絶対量にも影響を与えうるので、抗酸化ストレスの見地からの動物の細胞レベル、行動レベルに対する影響の検討は非常に重要である。しかし、酸化ストレス、特に細胞死を誘導するには至らないマイルドなレベルのものが脳に与える影響については、胎生期や幼若期における検討を除くと、特に成熟脳機能に関する検討は極めて乏しかった。xCTの異常は依存症などの多くの精神疾患では、成熟脳で予想されているので、この検討は急務であった。そこで本研究グループは、薬理学的にマイルドな酸化ストレスを一過性に誘導するシステムを利用し、急性あるいは慢性にマイルドな酸化ストレス負荷をかけた時に成熟ラットの脳内及び学習や行動に与える影響について検証した。その結果、酸化ストレス負荷が統合失調症やうつ病のような特定の精神疾患モデルを模倣するわけではなく、ある側面では治療薬的な効果も有し、その効果発現の機序はおそらくはドパミン系を介した作用であることを明らかにし、以下の論文として発表した。 Iguchi Y, Kosugi S, Nishikawa H, Lin Z, Minabe Y, Toda S. Repeated exposure of adult rats to transient oxidative stress induces various long-lasting alterations in cognitive and behavioral functions. PloS One, 9, e114024, 2014
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度は、まずtRNAのチオール化を触媒するMOCS3について、生食投与群とコカイン慢性投与群の側坐核および背側線条体でウエスタン法によりタンパク質量を比較した。しかしいずれの領域においてもMOCS3の量には変化を認めなかった。また、細胞内システィンが減少した場合に予想されるグルタチオン量についても、両群間で有意な変化を認めなかった。これらの結果はコカイン慢性投与後の側坐核では、xCTの機能低下が存在するにも関わらず、以前から可能性として指摘されていたように、グルタミン酸との交換以外にもシスティン(あるいはシスチン)を細胞内に取り込むシステムが存在する可能性を示唆している。最近、xCTが細胞内のcystathionineと交換して細胞外のグルタミン酸を細胞内に取り込むことが明らかにされた(Kobayashi et al, JBC, 2015)。これによれば、細胞内のcystathionineが増加した場合、細胞外へのグルタミン酸放出は低下し、コカイン依存症用の表現系を呈することになる。細胞内cystathionineの合成は、メチオニンからGCLあるいはCBSという酵素の触媒で産生される。まずGCLについて発現量を検討したが、これまでの報告のようにGCLの発現は特異的抗体を用いても確認されなかった。これまでの報告から、グリア細胞内でcystathionineを合成する経路(transsulfuration経路)が、xCTの機能に影響を与えている可能性が示唆された。そこで、もう一つのcystathionine合成経路であるCBSの発現量について検討した。その結果、予想と異なり、対照群と慢性コカイン投与動物を比べた結果、背側線条体では両群間に有意な差はなかったが、側坐核では、対照群に比べ、コカイン群でCBSのタンパク量が約20%ほど有意に低下していた。
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Strategy for Future Research Activity |
CBSタンパク質量の低下は予想に反するものであったが、この結果より二つの可能性が考えられる:①xCT, GLT1、あるいはメチオニンからCBSを介してcystathionine(cysteine)を合成する経路以外にも、cysteineをグリア細胞内に供給するルートが存在する、②CBSのタンパク量は低下しているが、活性は上がっている。CBSは酸化ストレスによって誘導されるglutathionylation化によって活性が上昇することが最近報告された(Niu et al, Antioxid Redox Signal, 2015)。一方、慢性コカイン投与は側坐核内でタンパク量のglutathionylation化を促進すると予想されている(Uys et al, Neuropsychopharmacol, 2012)。そこで今年度は、CBSの慢性コカイン投与後のglutathionylation化について免疫沈降法で検証する。慢性コカイン投与によるCBSのglutathionylation化促進が確認されたら、glutathionylation化に対する特異的阻害剤はまだ知られていないため、浸透圧ポンプを用いてCBS mRNAに特異的なsiRNAを側坐核に持続注入して発現量(活性)を抑制し、コカイン依存様の行動が変化するか検討する。
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