2014 Fiscal Year Research-status Report
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26861123
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
山北 伊知子 広島大学, 大学病院, 医科診療医 (70634088)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 肺腺癌 / 悪性化進展 / マイクロダイセクション |
Outline of Annual Research Achievements |
肺癌は日本をはじめとした先進国で悪性新生物による死因の上位であり、その克服に肺癌悪性化進展における機序解明は不可欠である。肺癌の悪性化進展に関わる遺伝子の分析が数多く行われ、一部がすでに臨床応用されているがその治療効果はいまだ十分とは言い難い。小型肺腺癌は近年増加傾向にあり、浸潤癌と非潤癌の混在型の頻度が高く、同一生体内で同一時期に多段階悪性化進展におけるそれぞれの時期を観察することが出来るモデルとして最適と考え、この非浸潤部と浸潤部の比較により悪性化進展を規定する分子の同定が可能と考えた。 そこで手術検体より採取し作製したMIAの凍結標本をレーザーマイクロダイセクションに供し、非浸潤部と浸潤部の癌細胞のみをそれぞれ採取した。各成分のtotal RNAを抽出、精製、RNA増幅後にDNAマイクロアレイに供し、非浸潤部と浸潤部における遺伝子発現の網羅的比較解析を行った。浸潤部に高発現を示す遺伝子、つまり浸潤・転移を促進させると考えられる候補遺伝子群のひとつに着目し悪性化進展との関連性を調べた。 まず、肺腺癌細胞株を用いて候補遺伝子の発現をRT-PCR法とウェスタンブロット法で調べたところ、候補遺伝子がEMT(上皮間葉転換;epithelial-mesenchymal transition)と関連していることを遺伝子レベルと蛋白レベルの両方で確認した。ここまでの結果から、肺腺癌において候補遺伝子は上皮-間葉移行に関与して浸潤能獲得や浸潤傾向の促進に関与する可能性が考えられた。 つぎに、肺癌手術検体において候補遺伝子の発現を確認したところ、非浸潤部に比較して浸潤部で候補遺伝子の高発現が認められることが確認された。このことから候補遺伝子が肺腺癌の悪性化進展に関与していることが推察された。 来年度は、機能解析の実験を中心に進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1) 肺癌細胞株における候補遺伝子の発現の確認 ヒト肺腺癌細胞株(RERF-LC-OK, NCI-H596, VMRC-LCD, A549, NCI-H441, NCI-H322)を用いて候補遺伝子およびタンパク発現を確認した。EMT(上皮間葉転換;epithelial-mesenchymal transition)のマーカーであるE-カドヘリンやビメンチンとの関連性をRT-PCRにより調べたところ、E-カドヘリンの発現のあるEpithelial-likeな細胞株では候補遺伝子の発現が認められず、ビメンチンの発現のあるMesenchymal-likeな細胞株では候補遺伝子の発現が認められた。ウェスタンブロット法の結果も同様であった。以上から、候補遺伝子がEMTと関連していることを遺伝子レベルと蛋白レベルの両方で証明した。ここまでの結果から、肺腺癌において候補遺伝子は上皮-間葉移行に関与して浸潤能獲得や浸潤傾向の促進に関与する可能性が考えられた。 2) 肺癌手術検体における候補遺伝子群の発現とその臨床病理学的特徴 肺癌手術検体において候補遺伝子の発現を確認した。肺腺癌組織のパラフィン包埋切片を用いて免疫組織学的染色を行ったところ、非浸潤部に比較して浸潤部で候補遺伝子の高発現が認められることが確認された。また、肺腺癌組織の凍結検体を用いて、非浸潤癌よりも前の段階である正常肺と浸潤部を含む腫瘍全体の候補遺伝子の発現をRT-PCR法で確認したところ、測定した13例全例で正常肺での遺伝子発現は認められず、13例中6例の症例で高発現が認められた。本結果から正常肺との比較ではあるものの、候補遺伝子が肺腺癌の発生・進展に関与していることが推察された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、機能解析の実験を中心に進める予定である。つまり、候補遺伝子を過剰発現、もしくは恒常的に発現させた細胞を用いた実験において、候補遺伝子群の制御によりEMTをコントロールできるか検討する。性質変化の指標としては、E-カドヘリンなどの上皮系マーカー、ビメンチンなどの間葉系マーカー、増殖速度としてのKi67などを考えており、ウェスタンブロット法や細胞染色でそれぞれのタンパクの局在の変化を調べる。 また、候補分子の量を変化させることにより性質変化を誘導された培養細胞の浸潤能がどのように変化したかを検討する。
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Causes of Carryover |
初年度の予算のうち、物品費に余裕がでたことが理由に挙げられる。 ヒト肺腺癌細胞株(RERF-LC-OK, NCI-H596, VMRC-LCD, A549, NCI-H441, NCI-H322)を用いて実験を行ったが、このうち新しく購入予定であったNCI-H322細胞株が、研究室内に保管されており購入の必要がなくなったことが大きい。また、試薬類はキャンペーンで割安となったタイミングで購入したため、計上した予算よりも下回る結果となった。 次年度は遺伝子導入の実験を計画しており、導入効率次第では試薬類も嵩むことが予想されるため、そちらに充てたいと考える。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、機能解析の実験を中心に進める予定である。つまり、候補遺伝子を過剰発現、もしくは恒常的に発現させた細胞を用いた実験において、候補遺伝子群の制御によりEMTをコントロールできるか検討する。 具体的にには、遺伝子導入された培養細胞を用いてInvasion Assayを行い、目的遺伝子の活性化ががんの悪性化進展を促進させることを示す。また、同細胞を用いてWound Healing testを行い、細胞増殖能がどのように変化したかを検討する。
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