2014 Fiscal Year Research-status Report
ヒト終末呼吸ユニット(TRU)上皮幹細胞分離・培養と肺腺癌発がんメカニズムの解明
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26861134
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Research Institution | National Cancer Center Japan |
Principal Investigator |
山田 健二 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, 外来研究員 (70645069)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 肺癌 / TRU-type 肺腺癌 / TTF-1 / p63 / 組織幹細胞 / 初代培養 / 培養法 / 発がんモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
1.TRU上皮幹細胞の分離・培養 新規培養法の開発により、これまで長期培養が困難であったヒトTRU由来(TTF-1陽性)細胞の培養に成功した。この培養条件下では2種類のTTF-1陽性細胞を樹立することが可能であった。1つはTTF-1単独陽性、もう1つはTTF-1/p63共陽性というユニークな形質を示した。シングルセルクローニングの結果、前者は後者から分化することが明らかになった。ヒト成体肺においてTTF-1/p63共陽性細胞はTRUの入口部の終末細気管支から細気管支に限局して存在し、Club細胞と密接に接してその基底側に存在していることを明らかにした。私はこのTTF-1/p63共陽性細胞はin vitroにおいて自己複製能を有し、またTTF-1単独陽性細胞への分化することから、ヒトTRUの組織幹細胞である蓋然性が高いと考えている。 2.幹細胞性維持に必要なnicheの解明 TTF-1/p63共陽性細胞はin vitroでWnt3AとR-Spondin1のconditioned medium添加により、telomerase活性を維持し、通常の複製限界を超えて培養・維持可能であった。また培養維持のためにⅠ型TGFβ受容体阻害物質であるA83-01の添加と間葉系細胞を用いたフィーダーが重要であった。 3.TRU上皮幹細胞を用いたTRU-type肺腺癌モデルの作成 hTERTを導入したTTF-1単独陽性細胞およびTTF-1/p63共陽性細胞を元にEGFRL858R、EML4-ALKなどの肺腺癌におけるdriver oncogeneを誘導性に発現できる細胞をレトロ/レンチウイルスを用いて作成した。TTF-1単独陽性の誘導性癌細胞については、免疫不全マウスへの腎被膜下移植の予備実験を行い、誘導性に発現させたがん遺伝子依存的に腫瘍形成能があることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の研究実施計画のうち、TTF-1/p63共陽性細胞がTRUの上皮幹細胞であるかどうかを明らかにする実験に関しては、培養法の開発と免疫不全マウスへの移植、3D培養を行ったが、まだこれらの細胞が多分化能を有するかどうかについては検討が不十分である。またTTF-1、p63はいずれも核内抗原であり、抗体を用いて生細胞をFACSによりsortingすることができないため、TTF-1/p63共陽性細胞を1細胞レベルで解析するのは困難であった。そのためシングルセル発現解析技術を用いた解析を施行することを検討したが、解析コストが高く断念した。一方、未分化状態と想定されるTTF-1/p63共陽性を維持したまま長期培養するために必要な因子を明らかにすることができたため、幹細胞が高率に含まれる細胞集団と低率に含まれる細胞集団の比較は可能となった。 幹細胞性維持に必要なnicheの解明に関しては、in vitroでの長期培養に重要な因子がWntシグナルの活性化とTGF-βシグナルの阻害であることを明らかにしたため、これらのシグナルに関連する分子の成体肺内での発現に関して当初の予定を前倒ししてin situ hybridizationによる検討を開始した。 TRU上皮幹細胞を用いたTRU-type肺腺癌モデルの作成に関しては、TTF-1単独陽性細胞を用いた移植の予備実験を平成26年度中に開始した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでにTTF-1陽性のTRU-typeの2種類の上皮細胞の培養法に関しては概ね方法が確立した。遺伝子導入なしに長期培養維持が可能となり、更にそのために重要な因子が明らかになったことから、培養維持する細胞集団中に幹細胞性をもつ細胞を高率に濃縮する方法を確立したことになる。しかし、さらにこの中から厳密に幹細胞性を有する単一細胞を同定することは、上記の通り、費用と時間がかかり、平成27年度の研究期間終了までに達成することは困難であると見込まれる。また、これまでの研究結果を複数の学会で発表したところ、肺の基礎研究者から培養法の公開や、細胞の分与等を依頼されたことから、樹立した2種類の細胞の分化能までを明らかにした段階で、論文報告する方針とした。また研究の目的はTRU-typeの肺腺癌の発生機構を明らかにすることであるため、樹立した2種類の細胞を用いた誘導性がん細胞の移植実験および、臨床肺癌検体におけるTTF-1/p63共陽性癌細胞の存在についての解析を優先して進める方針とした。
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Causes of Carryover |
平成26年度に前倒し請求して施行する予定であった実験の優先度が変わり、平成27年度に遅らせることになったため、前倒し請求額全額と平成26年度の支払い請求額の一部が余り、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
これまでの研究結果を複数の学会で発表したところ、肺の基礎研究者から培養法の公開や、細胞の分与等を依頼されたことから、樹立した2種類の細胞の分化能までを明らかにした段階で、論文報告する方針とした。従って、3D培養やマウスへの移植実験に必要な物品の購入、分化能を評価するための抗体やqRT-PCR用のprimer、試薬などに研究費を利用する予定である。また、論文の英文校正や投稿費などにも利用する予定である。 研究の目的はTRU-typeの肺腺癌の発生機構を明らかにすることであるため、樹立した2種類の細胞を用いた誘導性がん細胞の移植実験および、臨床肺癌検体におけるTTF-1/p63共陽性癌細胞の存在についての解析を優先して進める方針とした。そのため、マウスへの細胞移植と発がん実験にかかる費用、臨床肺癌検体の免疫組織化学的な解析にかかる費用に研究費を利用する予定である。
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