2015 Fiscal Year Research-status Report
β-catenin/CBP経路の選択的な活性化による新規iPS細胞作製法の開発
Project/Area Number |
26861216
|
Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
竹原 俊幸 近畿大学, 医学部, 助教 (60580561)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | iPS細胞 / CBP/p300 / beta catenin / リプログラミング |
Outline of Annual Research Achievements |
iPS細胞を用いた再生医療を早期実現するためには、安全で高性能なiPS細胞を効率的に誘導する技術の確立が必須である。これまで様々なiPS細胞の作成方法は報告されているが、実際には動物種やドナー細胞の違いによって大きく効率が異なることが知られている。種を問わない最適なiPS細胞作成方法を確立するためには、iPS細胞を含めた多能性幹細胞の性質とiPS細胞の誘導に伴うリプログラミング現象について詳しく知る必要がある。本研究では種保存性が高く、また細胞増殖、発生、細胞死や細胞の形態変化などに多様な機能を有する転写因子の一つ、beta cateninに着目したiPS細胞の誘導方法の確立を目指した。Co-activatorであるCBPおよびp300はbeta cateninと相互作用することが知られているが、多能性幹細胞への影響やリプログラミングに対する制御機構は未だに不明である。そこで、CBPあるいはp300/beta cateninシグナルカスケードの活性化による制御機構がiPS細胞誘導時に生じるリプログラミングに対してどのような影響を及ぼすかを明らかにし、新たなiPS細胞作成法の確立を実施する。 平成27年度では、前年度の研究結果から得られた知見をもとに、より詳細に多能性幹細胞における選択的なCBP/beta cateninシグナルカスケードの活性化がもたらす影響を明らかにするため、特異的にCBP /beta catenin経路を活性化することによる多能性幹細胞への影響を解析した。すると、状態の異なる多能性幹細胞において未分化および分化を制御する転写因子の活性化状態が異なることを明らかにした。また、実際にCBP/beta cateninシグナルカスケードを活性化することによる線維芽細胞からiPS細胞へのリプログラミングへの影響を観察した。その結果、初期のiPS細胞の出現効率の向上が認められたことから、iPS細胞へのリプログラミングにおいてbeta catenin/CBPシグナルカスケードは重要であることが示唆される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では、状態の異なる多能性幹細胞(ナイーブ状態; mES細胞およびプライムド状態; EpiS細胞)において、CBP/beta cateninシグナルカスケードの活性化がその個々の多能性状態へ及ぼす影響を明らかにした。特異的にCBP/beta cateninシグナルカスケードを活性化することで多能性幹細胞の維持やiPS細胞へのリプログラミング因子として重要であると報告されているNanog遺伝子および多能性状態の質に関わるTbx3遺伝子などの発現を正に制御することが示された。beta cateninシグナルカスケードは種保存性が高いことが知られていることから、これらの知見は、マウスだけでなくヒトを含めたその他の動物種への適用が期待される。また、本研究の副産物として状態の異なる多能性幹細胞の間における違いを明確にすることができ、そのひとつである細胞接着因子カドヘリンタイプの違いと状態の異なる多能性幹細胞の性質が深く関係していることを明らかにすることができた。このことはiPS細胞を含めた多能性幹細胞の性質を理解することに対して重要な知見のひとつになると考える。 さらに、CBP/beta cateninシグナルカスケードの特異的な活性化は線維芽細胞からiPS細胞への初期段階のリプログラミングの効率を向上させることを明らかにした。最終年度では、本年度の知見を用いてより発展させた研究として、本研究の狙いである異なる動物種においても同様にCBP/beta cateninシグナルカスケードの活性化によってiPS細胞の作成効率が向上するか検討を行う予定である。研究は予定どおり実施しているため、概ね順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度も計画通り研究を進める予定である。 本年度で得られた効率的なiPS細胞の作成方法を基盤に、いくつかの動物種の線維芽細胞を用いてCBP/beta cateninシグナルカスケードの活性化によるiPS細胞の誘導効率化を試みる。特に、iPS細胞の樹立が報告されていない動物種においても検討項目として実施する予定である。また、本年度に得られた異なる状態の多能性幹細胞がCBP/beta cateninシグナルカスケードの活性化によって制御されている可能性に着目し、beta cateninシグナルカスケードの活性化をCBP/p300に着目した制御を行うことで、多能性幹細胞の状態を制御することができるか検討を実施する予定である。
|
Causes of Carryover |
最終年度では、本年度までに得られた知見をもとに、iPS細胞の誘導時に生じるリプログラミングとCBP/beta cateninシグナルカスケードの役割について解析し、種を問わない効率的なiPS細胞の誘導方法を確立する。また、上記の研究と並行し、多能性幹細胞とbeta cateninシグナルカスケードの詳細な関係性を明らかにすることを予定している。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度では、マウス線維芽細胞だけでなく、ブタやサル、ウサギ、ヒト線維芽細胞を材料にiPS細胞の誘導を実施するため、細胞培養試薬や遺伝子導入試薬の購入を予定している。また、得られた細胞の性質を検定するため、遺伝子発現解析およびタンパク質発現解析に関連した試薬の購入を予定している。また、得られたiPS細胞の質の検定としてin vivoおよびin vitroにおける分化能の解析を行うため、免疫不全マウスの購入および分化誘導に使用する成長因子の購入を予定している。
|