2014 Fiscal Year Research-status Report
In vitroイメージングを用いた吸入麻酔薬セボフルランの標的分子の探索
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26861252
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Research Institution | Nippon Medical School |
Principal Investigator |
安齋 めぐみ 日本医科大学, 医学部, 助教 (30719000)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | セボフルラン / 概日リズム / 時計遺伝子 / Per2 / phase-shift / GABA受容体 / 株細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本プロジェクトは麻酔薬による時計遺伝子Per2発現抑制を麻酔効果の指標として、吸入麻酔薬の作用メカニズムの解明を最終的な目標としている。 (1) 本研究では、Per2プロモーター制御下で発光タンパク質ルシフェラーゼを発現するラットから視交叉上核(Suprachiasmatic nucleus: SCN)スライス培養を作成し、吸入麻酔薬sevofluraneをスライス培養に投与する中で、発光リズムのリアルタイムイメージングを可能とする測定システムの構築に成功した。これを用いて、SCNが麻酔薬に応答して概日リズムをphase-shiftさせる条件の検討を進め、薬理学的な実験により、sevofluraneによるSCNのphase-shiftにはGABA受容体の活性が必要であることを明らかにしつつある。 (2) 我々の研究グループは既にsevofluraneによって、SCNにおいてPer2転写が抑制される際に生じるエピジェネティカルなメカニズムを解明してきた。しかし、さらに麻酔により誘起される生化学的イベントの詳細な解析を進めるためには、SCNは領域が小さく、大量に集めて分析するには不向きであると考えた。麻酔薬で誘起される特定タンパクのリン酸化状態の変化、セカンドメッセンジャーの増減などの解析には、より均一で大量に準備できる株細胞系の確立が必要である。そこで本研究では、上記の条件を満たす株細胞の探索を試み、視床下部由来の株細胞GT1-7細胞ではPer2プロモーター制御下で発光が麻酔により可逆的に抑制されるころを見出した。つまりGT1-7細胞は“麻酔に応答する株細胞”であり、本研究は株細胞を用いた麻酔メカニズム解析実験系を確立しつつあることになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
麻酔薬によるPer2抑制を麻酔効果の指標として、SCN、GT1-7が麻酔薬に応答可能な細胞であることが明らかとなった。これは麻酔が細胞へ及ぼす影響を検出・解析する有用な系を2つ確立したことを意味する。 上記結論に到達する過程で以下の結果を得てきた。① SCN切片、GT1-7細胞から麻酔薬によるPer2プロモーター活性の影響をモニターするシステムをそれぞれ開発した (GT1-7用のシステムは現在、大学から特許出願中)。②SCN切片内においては性質の異なる神経細胞が偏在することが知られているが、麻酔薬への応答性に差はなかった。つまりSCN内の全ての細胞が麻酔薬に応答すると考えられる。③麻酔薬はSCNの概日リズムに対して、時刻依存したphase-shiftを誘起した。この結果は、麻酔薬は光刺激、覚せい剤等の薬物で報告されているのと同様にSCNの概日時計のモジュレーターとして働くことを示唆する。①, ②, ③により、SCNを用いて麻酔薬の応答を解析する際の条件が整ったと判断することが出来る。④阻害剤を用いた薬理学的実験により、麻酔薬へのSCNの応答には、GABA受容体が必要であることが明らかになった。現在までに得られた結果から、麻酔薬は細胞膜上のGABA受容体の活性を介して、何らかの細胞内情報伝達系に変更を与え、その変更が転写因子CLOCKの活性低下に反映されると推測される。今後は細胞内情報伝達系への麻酔薬の影響に解析を進めていきたいと考えている。この研究には、今回見出したGT1-7の適用が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) SCN, GT1-7がsevofluraneに応答することが明らかとなったが、他の吸入麻酔薬、静脈麻酔薬に関しての応答性を検討する必要性がある。 (2) 我々は、麻酔薬により転写因子CLOCKの活性が低下することを既に報告しているが、麻酔薬により誘起されるCLCOK活性に影響する細胞内情報伝達系については解明が必要である。 2-1 細胞内カルシウムは神経細胞の活性をモニターするうえで有用な指標である。麻酔薬に応じた細胞内カルシウムの動態を解析するために、タンパク質性カルシウムセンサーGCaMPを安定発現するGT1-7細胞の作製と、SCN切片にGCaMP発現ベクターを導入する方法の開発を進める。 2-2 均一な株細胞はアレイを用いた網羅解析に適します。GT1-7細胞を用いて、細胞内情報伝達にかかわるリン酸化酵素、リン酸化タンパク質に対する抗体アレイを行い、麻酔薬により誘起されるリン酸化カスケードのスクリーニングを試みる。70~80年代のがん、細胞周期の基礎研究、90年代の概日リズムの研究はいずれも均一な株細胞を駆使することで大きな進展を示した。“麻酔に応答する株細胞”を見出したことは、今後の麻酔メカニズムの研究を進める上で極めて有効なモデル系の確立であると確信する。
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