2014 Fiscal Year Research-status Report
口腔組織の炎症によって発生する気体分子と細胞機能の破綻
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26861586
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Research Institution | National Center for Geriatrics and Gerontology |
Principal Investigator |
萩原 真 独立行政法人国立長寿医療研究センター, 口腔疾患研究部, 流動研究員 (30546099)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 一酸化窒素 / ニトロシル化 / エンドサイトーシス / フリーラジカル / 炎症 / 酸化ストレス / 活性酸素 / 感染 |
Outline of Annual Research Achievements |
歯周病によって口腔組織が炎症を起こすと、フリーラジカルや活性酸素種などの気体の産生が著しく上昇し、細胞の機能が破綻する。誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)は、非炎症状態では発現していないが、炎症が惹起されると著しく発現が上昇する酵素であり、iNOSの発現上昇によって過剰に一酸化窒素が産生される。一酸化窒素は、ラジカル反応によって、タンパク質のシステイン残基に付加することが知られている(ニトロシル化)。このタンパク質の修飾は、炎症による細胞機能の破綻に影響を及ぼすものと考えられるが、分子レベルでのメカニズムについては不明な点が多い。そこで、一酸化窒素が生体に及ぼす影響について解析した。 一酸化窒素とタンパク質のニトロシル化との関連性を明らかにするために、グラム陰性菌の内毒素であるLPSで刺激し、iNOSを過剰に発現させ、ビオチンスイッチ法によって解析を行った。その結果、コントロール群と比較し、ニトロシル化しているタンパク質を見出し、それらのうち複数個は細胞内小胞輸送に関わるものであった。一方、LPSとNO阻害剤であるL-NAME投与群では、コントロール程度かあるいはコントロールよりもニトロシル化が低下していた。さらに、一酸化窒素と細胞内小胞輸送との関連性を明らかにするために、LPS刺激によってiNOSを過剰に発現させた細胞で、エンドサイトーシスアッセイを行った。その結果、コントロール細胞と比較して、LPSした細胞では、エンドサイトーシスが促進した。一方、コントロール細胞と比較し、LPSとL-NAMEを投与した細胞ではエンドサイトーシスが低下していた。また、ニトロシル化部位を予測するために、ニトロシル化モチーフ検索を行い、コンピュター上での推定的なニトロシル化部位の特定を試みた。 以上のことより、報告者は、NOのラジカル反応によって、タンパク質の機能が変化しているものと考え、引き続き気体分子の影響を解析していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、口腔組織の炎症によって発生する気体分子が細胞機能の破綻にどのように関わるのか、その仕組みを明らかにし、歯周病などにおける炎症による口腔疾患の病態を解明することを目指す。今年度は、フリーラジカルの一つである一酸化窒素によるタンパク質ニトロシル化について進展があった。 グラム陰性菌の内毒素であるLPSによって発生した一酸化窒素が、細胞内小胞輸送に関わるタンパク質のニトロシル化に関わることをビオチンスイッチ法で明らかにできた。また、LPS刺激によって発生した一酸化窒素が、細胞外から細胞内へ物質を取り込む機構であるエンドサイトーシスに関わることを、蛍光物質で標識したエンドサイトーシストレーサーを用いたエンドサイトーシスアッセイや蛍光顕微鏡観察で明らかにできた。また、ニトロシル化モチーフ検索を行い、タンパク質分子内のニトロシル化を受ける可能性のある配列を予想した。これらの結果は、炎症時における一酸化窒素のラジカル反応を介した細胞機能障害性の原因の一つが、小胞輸送の機能破綻である可能性を示唆している。歯周病などの口腔組織の炎症とニトロシル化との関連性は、分子レベルでは、ほとんど解明されておらず、本課題の成果は、口腔組織の炎症による細胞機能の破綻を解明する上での重要な手がかりとなるものであり、今後、培養細胞やin vivoモデルで詳細に解析することによって、ブレイクスルーの可能性が十分にある。 以上、今年度は、一酸化窒素によるタンパク質ニトロシル化を主たる結果として、来年度以降の研究につながる新しい知見を得ることができたことなどから総合的に判断し、おおむね順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
口腔組織の炎症によって発生する気体分子が細胞機能の破綻にどのように影響するのか明らかにするために、今年度明らかになった、一酸化窒素と細胞内小胞輸送との関連性を、今後も発展させin vitro並びにin vivoで詳細に解析していく予定である。そのためにも、文献等を参考にしながらできるだけ複雑にならない実験系を検討すると共に、専門化とのディスカッションを重ねて、最新の手法を取り入れながら効率良く進めていく必要がある。また、発現ベクターを入手あるいは作製し、ポイントミューテーション法でニトロシル化タンパク質の変異体を作製することによって、ニトロシル化部位の特定やニトロシル化の生理的意義の解析を試みる。そして、質量分析によるタンパク質修飾の解析、siRNAを用いたタンパク質のノックダウン、共焦点蛍光顕微鏡を用いたタンパク質の局在性の解析、免疫沈降法やプルダウンアッセイによるタンパク質-タンパク質相互作用の解析、蛍光物質を用いた一酸化窒素の定量などについて検討する。さらに、一酸化窒素で促進したエンドサイトーシスにどのような因子が関わってくるか明らかにするために、Rabタンパク質などについて解析を行う。今年度解析できなかったタンパク質ニトロ化については、タンパク質ニトロ化抗体を用いて解析を行うと共に、ニトロ化修飾を受けることが特定できたタンパク質については、ポイントミューテション法で変異体を作製し、ニトロ化部位の特定やタンパク質ニトロ化の生理的役割について解析を行っていく予定である。
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Research Products
(12 results)