2014 Fiscal Year Research-status Report
成人人工内耳装用者の社会復帰に向けたサポートシステムの構築
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26861908
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
羽場 香織 順天堂大学, 医療看護学部, 助教 (90419721)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 人工内耳装用者 / 成人 / 中途失聴 / サポートシステム |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は、国内外の成人人工内耳装用者のQOLに関する文献抄読、ならびに本邦で発刊されている成人人工内耳装用者の手記4冊を質的帰納的に分析することで、成人人工内耳装用者の健康上の課題に関する予備調査を行った。 その結果、特に本邦における成人人工内耳装用者の人工内耳装用後のQOL評価に関する先行研究は聴力改善を評価指標とした研究が大部分であり、人工内耳装用後の生活実態の詳細を明らかにした研究は国内外ともにほとんど行われていないことが判明した。 しかし、成人人工内耳装用者4名の手記の質的分析の結果、聴力改善が認められても、人工内耳を通した聞こえに慣れる過程において医療者も含めたサポートが十分ではないことによる苦悩や、人工内耳装用後の聴こえの状態を周囲に認識してもらえないことによる強い孤独感など、失聴からの脱却に喜びを感じる一方で、人工内耳を通した聞こえを自らのものとして受け入れるまでの過程で、特に医療専門職者からのサポート不足や周囲との関係構築、ピアとの情報交換等に対するニーズが高いことが推察された。さらに、「健聴」といわれる状態を体験している成人人工内耳装用者は、その頃の聞こえの状態と人工内耳装用後の聴こえの状態のギャップに多大な衝撃を受けるという、中途失聴者ゆえと考えられる苦痛な体験や、人工内耳を装用した自らの状態を「健聴者」でもなく「ろう者」でもなく「難聴者」とも言い難い存在として認識し、人工内耳装用をきっかけに、自己の存在のゆらぎを体験していた。これらの結果から、成人人工内耳装用者が、人工内耳装用後の状態に適応する過程でさまざまな健康上のニーズが潜在している可能性が高いこと、現在、本邦では十分なサポート体制が構築されているとは言い難いことが推察された。 この結果をふまえて、現在、成人人工内耳装用者の生活実態や健康上のニーズを把握するための調査票案の作成を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、2014年度中に調査票のプレテストまで行うことを目標としていたが、装用者の手記の分析結果から、予想以上に成人人工内耳装用者が潜在的に持っていると予測される健康上のニーズが幅広いことが予測された。そのため、2014年度の予備調査の内容をふまえて、成人人工内耳装用者の健康上のニーズを的確にとらえられるように、調査票に盛り込む質問内容や調査票の構成を検討することに時間を要してしまった。その結果、2014年度末時点では、調査票の試作段階にとどまってしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年8月を目標に、調査票の作成、ならびに質問紙調査開始に向けて所属機関の倫理審査申請・承諾を得る手続きを終了できるように調査票作成を進めたいと考えている。
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Causes of Carryover |
当初、2014年度中に本調査で使用する調査票の作成を終える予定でいたが、現在質問内容の精選の途中である。そのため、2014年度中の予算として計上していた調査票のプレテストでかかる費用(旅費・協力者への謝礼等)と、調査時に対象者とのコミュニケーションを円滑に行うために用いる目的で使用を検討しているタブレット型情報端末の購入費用を2015年度に持ち越すことにしたため、「次年度使用額」が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年度中に質問紙調査を開始できるよう、2014年度に行った文献検討(先行研究ならびに成人人工内耳装用者4名の手記の質的分析による成人人工内耳装用者の持つニーズの検討)の結果をふまえて、現在、調査票の作成を進めている。2015年8月を目途に倫理審査申請を終える予定に研究計画を再調整しているので、審査が終わり次第、プレテストを始められるように協力者への要請と、コミュニケーションツールの購入等の調査準備を進めたいと考えている。
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