Outline of Annual Research Achievements |
がん薬物療法における曝露予防は,2015年にガイドラインが発刊されたが,その焦点は医療従事者で,抗がん剤治療を受ける患者の家族らには,十分な知見がなく明確な言及はない.家族らの間接的曝露は,先行研究で示されており,曝露経路として患者の排泄物によることが示唆されている.家庭で,患者と一定期間,トイレ共用を避けることが,間接的曝露予防に効果的と考えるが,往々にして共用を避けることは難しい.トイレ環境汚染は,座位での排泄で縮小可能だがなくすことはできない.本研究では,清掃により抗がん剤のトイレ環境汚染を除去できないか実験的に検討した. サンプリングシート(10cm×10cm)に疑似的に抗がん剤汚染状況(CPA,5-FUを50μL添加)を作り,家庭のトイレ掃除を想定し,4資材(水に浸した雑巾,市販のトイレ掃除シート,次亜塩素酸(2%)に浸した雑巾,水に浸した紙タオル)で,拭き取りを2通り(普通に拭く:約1.5㎏の力,強く拭く:約3.0㎏の力)実施した.結果,どの資材・方法も,検出限界値以下(CPA:0.2ng/100㎝2,5-FU:1ng/100㎝2)にはならなかったが,除去率[(添加量-検出量)÷添加量×100で算出]は,99%以上であった.強く拭く方が除去率は高い傾向で,水を含ませた雑巾が一番除去率が高かった.よって,家庭での抗がん剤曝露予防策として,患者排泄後のトイレ環境の拭き掃除が,物理的に間接的曝露量の減少に繋がることが示唆された. 本研究の限界は,拭き取り効果に関する先行研究がなく,各資材の除去率検討のため,添加量を日本薬局方1摘相当量の50μLで行った.しかし,先行研究による実際のCPAのトイレ汚染量は3~734ng/100㎝2で,添加量と大きな差がある.本研究により拭き取りの物理的効果が示唆されたため、実際に近い汚染状況での拭き取り効果を検討していく必要がある.
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