2014 Fiscal Year Research-status Report
光応答膜タンパク質ASRの遺伝子発現調節機構の構造基盤
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26870015
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
神谷 昌克 北海道大学, 先端生命科学研究科(研究院), 助教 (30399810)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 膜タンパク質 / ロドプシン / 転写調節因子 / NMR / 相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
ASR は真正細菌であるシアノバクテリアから発見された微生物型ロドプシンファミリーに属する光応答膜タンパク質である。ASRが光合成色素タンパク質の遺伝子発現を直接制御することが近年、明らかになったが、その構造基盤は全くの不明である。本研究はASRによる遺伝子発現の制御機構を明らかにするためにASRと関連分子との間の相互作用をNMR法により明らかにし、光応答膜タンパク質ASRによる光合成色素タンパク質の遺伝子発現調節の機構を明らかにすることを目的とする。 ASRおよびASRTはすでにそれぞれ単独の結晶構造が報告されており、基本的な試料調製法が確立しているが、本研究の相互作用解析にそのまま用いるには現状問題がある。26年度はまずASRとASRTの相互作用解析に適した試料調製法の検討を行った。 ASRとASRTそれぞれにおいて種々のコンストラクトをデザインし、その大腸菌組換え体を可視吸収測定、円偏光二色性測定、動的光散乱測定、閃光光分解測定、NMR、SDS-PAGEを用いて評価した。その結果、ASRTのC末端側のHis-tag等の人工配列の導入がASRTの多量体構造の安定性に大きな影響を与えることが明らかになった。一方で、N末端側に人工配列が導入されたコンストラクトのASRTにおいて多量体構造の安定性は野生型のASRTと同程度であった。人工配列の有無がASRとASRTの相互作用に影響を与えることがすでに報告されており、今回の結果はASRTの多量体構造がASRとASRTの相互作用に非常に重要であることを示唆する。また、ナノディスクを用いた試料調製法を検討した結果、安定なASRの試料調製に成功した。今後は上記で検討した試料調製法を用いて試料を調製し、等温滴定カロリメトリーを用いて相互作用の詳細を明らかにし、その複合体をNMRを用いて明らかにしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ASRTに関しては過去の報告されているものとの比較からNMRスペクトルの主鎖帰属を行い、70%の帰属に成功した。一方、ASRについてはスペクトルが得られたものの試料の不安定さから帰属可能なスペクトルの取得には至っていない。ASRとASRTの相互作用解析を等温滴定カロリメトリー法、閃光光分解法およびNMRにより調べた。これらいずれの方法においても相互作用に関する再現性のあるデータの取得に至っていない。帰属および相互作用の解析のそれぞれにおいてASRの試料調製は界面活性剤によって可溶化する方法を用いている。しかしながら、界面活性剤を用いた試料調製法では界面活性剤の持つ特性により、それらの解析に不適合なことが考えられた。そこで、界面活性剤を用いない新たな膜タンパク質の調製法として近年、注目されているナノディスクを用いることとした。現在までにナノディスクによるASRの試料調製に成功し、また、界面活性剤に比べ非常に安定であることが明らかになった。今後はこの試料を用いてNMRによる解析を進める。全体の進捗度についてはNMR解析の部分に関してやや遅れているため、総評として「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度はASR、ASRTおよびプロモーター配列のNMR による相互作用解析行う。まずはASRとASRTの間の相互作用解析を行う。15N標識ASRT試料に対して非標識ASRを滴定することで、化学シフト摂動法および転移交差緩和法によりASRT上のASRとの相互作用部位を特定する。また、その逆に 15N標識ASR試料に対して非標識ASRTを滴定することで、同様にASR上のASRTとの相互作用部位を特定する。ASRとASRT分子間の原子間距離情報を得るためにASRに常磁性スピンラベルを入れる。スピンラベル試薬はすでにASRのNMR解析で実績のあるMTSLを用いる。MTSLはSH基特異的な試薬であるのでASRの膜外ループにCys残基を変異導入することでASRをスピンラベル化する。スピンラベルが導入されたASRとASRTの複合体のNMR測定により、常磁性緩和効果による距離情報を取得する。Cys残基の導入部位が異なる数種類のスピンラベル化ASRを用いたNMR測定から構造計算に必要な距離情報を収集し、複合体の構造を決定する。ASR-プロモーター配列、ASRT-プロモーター配列および3者複合体の解析も上記と同様な方法で行う。
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Causes of Carryover |
当初の予定より研究の進捗にやや遅れが生じ、NMR解析で用いるための安定同位体標識試薬およびレーザー装置の購入を27年度に延期したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の予定通りに、安定同位体標識試薬およびレーザー装置の購入に使用する。
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