2014 Fiscal Year Research-status Report
乾燥環境で植物生産の向上に寄与する水分屈性制御因子の同定と機能解析
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26870057
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小林 啓恵 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (60463783)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 水分屈性 / 環境ストレス / 乾燥 |
Outline of Annual Research Achievements |
乾燥環境下における水獲得は、植物の生存や作物の生産性を左右する。植物の根は水分勾配を感受して高水分側に伸長する『水分屈性』を発現することによって、この乾燥ストレスを回避する能力を有する。申請者は、水分屈性に必須の遺伝子、MIZU-KUSSEI1(MIZ1)を発見した。さらに、最近MIZ1過剰発現体で水分屈性が亢進されることを明らかにし、MIZ1と相互作用する因子の候補を単離することに成功したが、その機能は未だ不明である。そこで本研究では、MIZ1の分子機能を解明する研究を展開し、水分屈性の制御機構を理解することによって、植物が効率的に水分を獲得して生産性を向上させるための分子基盤を構築することを目指す。 当該年度は、まずMIZ1の機能する細胞群の同定を進めるために、組織特異的なプロモーターを利用して、MIZ1を限定した組織で発現させるシロイヌナズナの形質転換体の作出を行った。作出した形質転換体の水分屈性能を観察した結果、一部の組織特異的プロモーターで水分屈性を回復した。このことからMIZ1が機能する領域を限定できた。さらにアクチベーションタグラインであるGAL4形質転換体を利用した系統も作出中である。次に、マイクロアレイによる遺伝子の網羅的解析を行い、MIZ1と関連する因子の単離を目指した。解析には野生型とmiz1突然変異体、MIZ1過剰発現体を用いて、通常の状態と水分屈性発現時の遺伝子の発現を網羅的に比較解析し、いくつかの候補遺伝子を得た。さらに、これらの発現の再現性をとるためにリアルタイムRT-PCR法を行うとともに、候補遺伝子のノックアウト系統の水分屈性能の評価も行った。その結果、水分屈性関連因子として、可能性の高いものが得られており、解析を進めることによって水分屈性発現機構の理解が深まると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、まず、MIZ1の機能する細胞群を同定するために、組織特異的なプロモーターを利用して、MIZ1を発現させる組織を限定した形質転換体の作出や組織特異的に標的遺伝子を発現させるアクティベーションタグラインであるGAL4転換体を使用して、MIZ1の領域特異的発現誘導できる系統を作出予定であった。組織特異的プロモーターを使った形質転換体の作出については、プロモーターとして、MIZ1タンパク質が発現する皮層、側部根冠組織を含め、表皮、内皮、根冠のコルメラ細胞などを用いた。コンストラクト作成も順調に進み、水分屈性能を検討することもできた。これは当初計画より進展している。GAL4形質転換体を使用した系統作出については、GAL4形質転換体とUAS-MIZ1との交配が進んでおり、水分屈性能をまもなく評価できる段階まできている。 さらに、申請者は、MIZ1の活性化により発現変動が生じる遺伝子群を特定し、MIZ1の分子機能を推測するために、野生型Columbiaに加え、水分屈性の欠損しているmiz1-1突然変異体とMIZ1を過剰に発現させた形質転換体MIZ1OEsの間で、通常の生育状態と根に水分勾配刺激を与えたときの根端を用いてマイクロアレイを行った。そのデータから網羅的な遺伝子発現解析を行い、複数の候補遺伝子を選抜した。そして、その発現の再現性をリアルタイムRT-PCR法により確認するとともに、候補遺伝子の機能欠損突然変異体の形質評価を複数系統行うことができた。これらの結果から、現在MIZ1と関連して水分屈性を制御する可能性のある候補遺伝子が得られた。 また、平行して行う計画であったMIZ1と相互作用する因子の同定については、相互作用の確認まで至っていないが、他の計画について当初の計画より進展しているものもあることがら、総合的にはおおむね順調に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、計画書通り推進していく。まずMIZ1の機能する細胞群を同定するために、作出しているGAL4形質転換体を使用した系統の水分屈性能が回復するかを評価しする。そして、現在得られている組織特異的なプロモーターを利用して、MIZ1を発現させる組織を限定した形質転換体の水分屈性能の回復した系統と合わせて、どの細胞群でMIZ1が働くことで水分屈性が誘導されているかを判断する。さらに、MIZ1と相互作用する因子候補について、相互作用するかの検証を行う。これによって、得られたMIZ1と相互作用する因子について、水分屈性発現の際にどのように相互作用するのかを検証していく。 さらにマイクロアレイを利用したMIZ1依存的に発現変動する遺伝子群の網羅的単離により得られた水分屈性関連遺伝子が、水分屈性にどのような役割をするのかを推定するために、関連する物質を可視化したり、これまでに水分屈性関連因子として見出しているMIZ2やHY5の変異体での発現を解析して関連性を検証していく。また、マイクロアレイより得られた候補遺伝子について、発現の再現性やノックアウト系統を利用した水分屈性への寄与の検証も続けて行い、関連遺伝子として得られたものについて順次、水分屈性における役割を明らかにするための実験を進めていく。これらを進めることで、これまでに見出されていない水分屈性関連因子を発見していき、水分屈性の制御機構を理解していくことを目指す。
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Causes of Carryover |
当該年度は主に、時間の必要とする形質転換体の作出に力を注ぎ、その栽培や次世代系統の作成を行った。主に系統の作出のためのコンストラクトや発現解析のためのプライマーの購入に使用し、さらにその系統作出が順調に進展したため、その成果を学会で発表するために旅費としても使用した。それでも生理学的実験や栽培が主だったために、当初使用する額より少額となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該年度で結果を得られていない分子生物学的実験を遂行するために予算を使用する計画である。さらに、当該年度に得られた成果をさらに進展させるための次年度(平成27年度)の実験計画を進展するためにも使用する。そして、これらの成果を論文として発表するために必要な経費としても使用していく予定である。
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Research Products
(6 results)