2014 Fiscal Year Research-status Report
明治後期の日本外地における漢詩文活動とその思想の実証的研究――籾山衣洲を中心に
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26870069
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
許 時嘉 山形大学, 人文学部, 准教授 (10709158)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 漢詩文 / 明治期 / 籾山衣洲 / 海外雄飛 / 志賀重昂 / 保定軍事学堂 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、明治後期、日本の海外進出に伴う漢詩文活動に焦点を当て、海外日本人の私人日記・詩文手稿・書簡などの私文書を主な考察対象として、彼らの文筆活動の実態と創作心理を分析するものである。本年度は海外日本漢詩人の交友関係からみた文学創作/政治活動の相互関連性を見出すことを目的として、以下の手順で研究を行なってきた。 (1)海外日本人の漢詩文活動における詩料探しの心理を分析し、その研究成果を「新天地における詩料への欲望――明治期の海外漢詩創作をめぐって」と題して、日本比較文学会東北大会(2014年11月1日、弘前大学)で発表した。発表では、海外雄飛時代を代表する国粋主義者・志賀重昂を取り上げ、彼の海外巡航時期の漢詩創作における「詩料」への絶えない欲望が作品に描かれた「志」の在り方とある補完関係を保っていると提起し、明治期の海外雄飛時代における漢詩人の位置づけを問い直してみた。 (2)海外漢詩人の実証的研究として、籾山衣洲の中国活動の資料収集を行ない、離台後の衣洲の足跡を考察した。籾山衣洲が台湾から去った後、東京、保定、大阪に転々としていたが、その頃の詳細を知る唯一の手掛かりは衣洲の日記である。本年度は大阪府立中之島図書館所蔵の衣洲の肉筆の日記(東京時代及び天津・保定時代)の収集と解読を努め、その後の足跡を把握した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海外日本漢詩人の創作心理を検討する前に、明治期漢詩人の海外風景受容の実態は研究の知的基盤として明らかにする必要がある。本年度は、志賀重昂の詩文観と風景観、国粋思想との交差に焦点を合わせて、一つのまとまった知見を得た。志賀重昂の海外遊歴時の漢詩作品は、物への描写を極め、目の前の景色を実体化する傾向を持つと指摘できる。この物に集中する語り方は江戸時代から「志の不在」の詩文伝統を引き継いだ側面が見える。一方、詩人たちが「詩言志」という漢詩本来の詩体の特徴に掻き立てられることは「大志を広げ」という海外雄飛の時代を背景にする場合、目の前の風景を語ろうとすることにとどまらず、海外へ「詩料」を渇望する欲望に一変する、という可能性も現れてくる。 また、次年度に本格的分析を行う予定の籾山衣洲研究についても、予備的な概観と考察作業を行なってきた。籾山衣洲の事跡・文学活動を理解するため、衣洲の日記の翻刻・解読が一定程度完了している。日記の解読が進む中、1904~1905年「東斌学堂」の設立と改組における衣洲の役割及び日露戦争初期に清朝中国に積極的に渡ろうとした彼の姿が明らかになった。資料収集も順調に進展している。衣洲の手稿以外、国会図書館で収集した明治43年版の「保定倶楽誌」は保定時代の籾山衣洲日記の周辺人物と交友関係を知る事ができる貴重な資料である。ところが、今後の進捗に関してまだ課題が残らないわけではない。保定時代の周辺人物の日本人友人の名前と職業についてある程度明らかになったが、無名の方が多いため、保定にいる日本人団体の性質についてまとまった知見を得るのは至らなかった。保定軍事学堂の関連情報を広く参照する必要を感じ、周辺人物の全面的な考察に時間がかかっている。しかし、これらの問題は中国側の保定軍事学堂の一次史料の収集と衣洲の書簡の調査を工夫することによって克服可能だと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究について、下記の3点を中心に行う。 (1)籾山衣洲日記の解読作業を行ない、引き続き分析を行なう。北京国家図書館、台湾中央研究院で保定陸軍軍官学堂の周辺史料を収集し、日記による研究成果を論文としてまとめて学会で発表する。また、日記文字の日本語版と中国語版が台湾で出版することが決まり、編集作業を経て関連内容を今年度にウェブ上で無料公開する予定。出版と文字資料公開について、日記所蔵先の大阪府立中之島図書館から出版掲載許可を得て、籾山衣洲の遺族からも承認と協力をいただいた。 (2)日記の解読成果を生かし、同時代の日本海外拡張における文人たちの行動原理の原型――記者の籾山衣洲のほか、言論活動家と学者を代表する西村天囚(1865~1924)と田代安定(1857~1928)の著作と手稿を考察し、三人の詩文観の異同を分析する。台湾大学図書館台湾特蔵資料室で田代文庫に所蔵する肉筆の踏査手稿を収集、複写、解読する。 (3)詩文創作における花鳥風月的な審美観の変容に焦点を当てて、日本人漢詩人たちが海外に赴き新しい詩料としての風景を目の前にする際に、いかに江戸以来の作詩作法を無意識に踏襲しつつ、現地の異国の風景を読み替え、入れ替えたのか、という点に引き続き注目する。
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Causes of Carryover |
今年度は日程関係で東京に点在する資料データの収集が時間的に限られていたことから、そして、研究に関する郵送費、雑費などの使用の大半を大学研究費で処理したことで助成金の差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度はデータ収集と入力作業にも取り掛かるため、差額は翌年分として計上する。 また、次年度の研究費の利用には、各地に収蔵されている籾山衣洲周辺関係資料の調査のための旅費や、最新研究動向の関連研究用図書、データ収集整理用の設備備品費や消耗品費、日記のデータ入力作業の補助のための人件費・謝金等が含まれる。
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