2015 Fiscal Year Research-status Report
明治後期の日本外地における漢詩文活動とその思想の実証的研究――籾山衣洲を中心に
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26870069
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
許 時嘉 山形大学, 人文学部, 准教授 (10709158)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 詩言志 / 清末中国 / 籾山衣洲 / 田代安定 / 明治期漢詩文 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、前年度から翻刻を続けてきた籾山衣洲の渡清後の日記(大阪府立中之島図書館所蔵)を研究対象にし、清国滞在時の彼の創作の特徴を考察して試みた。具体的な面は次のとおり判明した。 (1)研究成果「明治期日本漢詩人の海外活動と漢詩文創作――籾山衣洲を例にして」(日本台湾学会第17回学術大会論文発表、2015年5月23日)では、渡清前後の日記と彼の同時期の詩文作品とを照らし合わせ、不遇による現実逃避と詩文にひたすら没頭する姿を明らかにし、彼の詩文表現に現れた「過剰な」抒情性とその意義を分析した。 (2)同時代の日本海外拡張における文人たちの行動原理の原型への考察を広げるため、植物学者田代安定(1857~1928)の肉筆の踏査手稿(台湾大学図書館台湾特蔵資料室所蔵)を収集した。初歩の解読では、田代が踏査の傍ら、ノートにしばしば遊び感覚で自作の漢詩を記入していたことが判明した。明治期漢詩文教養の普遍性と多様性を反映する貴重な資料として更なる分析に値する。 (3)籾山衣洲日記の出版作業が順調に進み、解説と本文の翻訳、注釈を終え、校正に入っているところである。本年度下半期に台湾の中央研究院台湾史研究所で出版することが決まった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は籾山衣洲の中国滞在時の日記と詩文作品について初歩的な分析を試みた。日記の解明に当たっては、中央研究院近代史研究所に所蔵する清末の外交文書と保定軍事学堂の関連資料を基にして、離台後の衣洲の足跡を本格的に明らかにした。1904年4月から1905年9月まで日本一時帰国中に東斌学堂と「如雲綿」の事業を同時に起こしたが、校務と事業は共にうまく行かず、衣洲を悩ませた。その後、台湾時代の上司・児玉源太郎や日本軍関係者に積極的に連絡を取り、清国で新たな機会を見出そうとした。現実の不遇と詩人の自負との衝突に置かれた彼は、作詩の行為とその評価を常に強く意識している。それと相まって、詩人としての自意識が文字表現に溢れて、場合によって必要以上盛り込まれてもいることが明らかになった。国家膨張主義の路線と歩みを共にするとはいえ、衣洲は抒情的なものにもっぱら託し、詩人としての自意識を強調し、時に過剰なほど自己代弁している。この姿勢が前年度で分析した海外雄飛時代の志賀重昂の「詩料探し」と随分異なり、従来「詩言志」という漢詩観が明治後期に入って多様的に変容したことが判明した。 また、同時代日本知識人の海外活動の事例との比較を進めるため、植物学者田代安定の肉筆の台湾踏査手稿の収集と予備的な概観を行った。漢文筆談のメモや自作の漢詩に綴られた手稿は、明治期漢詩文教養の普遍性を反映した一方、膨張主義時代における漢詩文の遊戯性と抒情性の位置づけを示唆し、次年度からは更なる分析、考察を続ける。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究について、以下の手順で進めていく。 (1)清国滞在時の日記から、籾山衣洲がしばしば天津で日本人主宰の新聞紙『北清時報』に投稿することが分かった。清末の中国華北地方の新聞雑誌を調査し(中国国家図書館、上海図書館、中央研究院)、清末期の新聞報道のネットワークから衣洲の言論と思想の位相を把握する。 (2)籾山衣洲日記の解読成果を生かしながら、日本海外拡張における文人たちの行動原理の原型と変容を考察し、成果を公表する。主に下記の二点から考察を進める:(A)寺門静軒、成島柳北の無用論から、志賀重昂の海外雄飛論を経て、籾山衣洲同時期知識人の詩文観まで明治初期から後期にかけて日本漢詩人の「志」のあり方の変化に注目し、詩文創作における「志」と花鳥風月的な審美観との関係性を考察する。(B)詩話論を中心にして、日本人漢詩人たちが海外に赴き、新しい詩料としての風景を目の前にする際に、江戸以来の作詩作法への踏襲や脱却に注目する。
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Causes of Carryover |
本学は平成27年度から海外調査の旅費計算に関する宿泊条件の修正があったので、助成金の差額が生じた。次年度はデータ整理の人件費に取り掛かるため、差額は翌年分の人件費・謝金として計上する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の研究費の利用には、成果発表と資料調査のための旅費や、最新研究動向の関連研究用図書、データ収集整理用の設備備品費や消耗品費、データ入力作業の補助のための人件費・謝金等が含まれる。
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