2014 Fiscal Year Research-status Report
全袋検査と環境モニタリングによるセシウム吸収リスクの地理的解明と福島稲作復興
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26870071
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
石井 秀樹 福島大学, うつくしまふくしま未来支援センター, 特任准教授 (70613230)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 放射性セシウム / 水田 / ポット栽培実験 / 稲のセシウム吸収 / フォールアウト / 全量全袋検査 / 交換性カリウム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、土質や水源の多様性に即した極かな営農指導、ならびにセシウム低減資材の継続・低減・停止に関わる将来的な判断を視野に入れ、稲のセシウム吸収メカニズムに即しつつ、持続可能で実効性の高い放射能対策を構築することである。 研究申請時ではコメに放射能が検出される事例は、水がセシウムの供給源とされ、かつカリウム肥料による低減対策を怠った場合が主であった。だが平成25年は南相馬市を中心に基準値越えのコメが確認された。その原因は福島第一原発の瓦礫処理で放出されたセシウムが広域拡散し、これが降下して水を汚染したり、稲に直接付着した可能性が指摘されている。一方、南相馬市以外では基準値100Bq/kgを超えたのは1事例にとどまった。平成26年では基準値100Bq/kgを超えるコメは確認されず、50Bq/kgを超えたのも14事例に限定される。大気降下物による汚染を除けば、今日では水がセシウム供給源となるリスクは低下しつつある。 本研究では、JA新ふくしまの水田を対象に、平成24年から平成26年までの全量全袋検査の結果から稲のセシウム吸収があった圃場を特定し、セシウム吸収の推移と変容を把握した。ただし水が供給源となる事象が大幅に減少していることを考慮し、今年度は水のモニタリングを中止した。 一方、大気降下物によるコメ汚染という新たな事象が生じる可能性を鑑み、平成26年6月からダストサンプリングによる大気中セシウム濃度のモニタリングを南相馬市で始めた。また大気降下により水が一過的に強く汚染された場合の稲のセシウム吸収を解明するため、10Bq/kg程度のセシウムが含まれる水を2週間毎に時期を変えて供給するポット栽培実験を行い、稲株とコメのセシウム吸収動態も把握した。またJA福島中央会と連携し、福島県内約800箇所の水田で土壌を採取し、放射能と交換性カリウム濃度の分析を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、全量全袋検査では基準値100Bq/kgを超える事例はゼロとなった。伊達市小国地区の水稲試験栽培における水のモニタリングでも河川やため池のセシウム濃度は大幅に低下するなど、平常時なら水がコメのセシウム供給源となるリスクは低下している。一方、福島第一原発などからのセシウム再拡散などで、大気からセシウムが降下し、水を汚染したり、稲株にセシウムが付着することで、コメが汚染される事象にも対応する必要が出てきた。 本研究では、このような情勢変化を鑑み、水のモニタリングを中止し、新たに大気のモニタリングを実施するなど、研究の枠組みを変更させた。とはいえ大気降下物により一過的に水の汚染が生じる可能性もあり、水が一時的に強く汚染される場合を想定した稲のセシウム吸収メカニズムの解明をポット栽培実験により開始した。このように本研究では、土壌・水・大気が多様な経路で相互連関しながらセシウム供給源となる可能性を想定して、総合的に稲のセシウム吸収メカニズムを検証している。 またJA新ふくしまで実施している、①農地の放射能計測の結果と、全量全袋検査や農作物のモニタリング結果との照合、②セシウム吸収リスクのある圃場の特定、などは「生産工程管理」を進めるデータベースの構築にむけたパイロットスタディである。またJA福島中央会と実施している、福島県内800箇所の水田土壌における放射能計測と交換性カリウムの計測は、カリウム肥料による低減対策を継続・低減・中止を判断するための基礎的データを得るための重要なコレクションとなる。 平成26年度の本研究では、このような取り組みを同時並行的に進めることで、カリウム肥料による低減対策が不可欠な栽培条件を、土壌、水、大気の3つから総合的に検証し、実行力ある「生産工程管理」を構築するための基礎的知見を得てきた。
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Strategy for Future Research Activity |
今日、水田に供給される水に含まれるセシウム濃度は大幅に低下し、平常時では水がセシウムの供給源となる事例は大幅に減少している。全県的に実施されてきたカリウム低減対策の効果もあり、平成26年度の全量全袋検査では基準値を超えるものは無くなり、カリウム肥料を用いた低減対策の停止・縮小が視野に入った。 一方、平成26年度に実施された伊達市小国地区での試験栽培によれば、カリウムによる低減対策をしなければ基準値100Bq/kgを超える圃場もあり、福島県内には未だ低減対策を停止できない水田がは多数あることが示唆される。また大気降下物によるコメ汚染についても、セシウム吸収メカニズムの解明が途上にあり、これを防ぐ有効な手段は未だ確立していない。 平成27年度は、①過去の全量全袋検査の結果などからセシウムが検出された圃場、ならびに平成26年にJA福島中央会と調査した水田などの土壌を用いてポット試験を行い、土壌中の交換性カリウム、交換性セシウムとの関係から、セシウム吸収リスクの高い土壌条件を解明し、土壌面からのリスク評価を行う。また②ポット栽培試験を通じて大気降下物によるコメのセシウム吸収メカニズムとその抑制策の解明に注力する。 そうする事で、本研究では大気降下物によるコメのセシウム汚染という新たな事象も見据えつつ、カリウム抑制対策の継続・縮小・停止を検討するための条件を明らかにし、現在の一律的な対策を改め、社会的費用と労力の選択と集中を図りながら、持続可能な生産工程管理のあり方をモデル化する。こうしたモデルは、福島県内のJAと連携しながら、「生産工程管理データベース」を構築・運用させて、実行力ある「稲作復興プラン」の提示に資する予定である。
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Causes of Carryover |
研究申請段階では、土壌分析を民間分析会社に外部発注する経費を計上していたが、全量全袋検査の結果からは水がセシウムの供給源となる事例が皆無となったため、今年度は土壌分析の必要性が無くなり、外部委託費が大幅に減ることとなった。一方、平成25年には大気降下物がコメの汚染源となる新たな事態が発生しており、新たに南相馬市での大気モニタリングを実施することとなり、その分の旅費や物品費が増加した。 こうした経過から申請時からの研究計画の変更が生じ、新たに研究計画を練り直した上で、然るべき支出を行った結果、次年度に引き継がれる額が発生した次第である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該資金については、引き続き南相馬市でのダストサンプラーを用いた大気中の放射性セシウム濃度の測定に関わる旅費や物品費に充てる予定である。
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Research Products
(12 results)