2014 Fiscal Year Research-status Report
強磁性トポロジカル結晶絶縁体の開発とその空間反転対称性からみた特性の解明
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26870086
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
秋山 了太 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40633962)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | トポロジカル絶縁体 / トポロジカル結晶絶縁体 / 弱反局在効果 / 角度分解光電子分光 / ディラックコーン / 強磁性 |
Outline of Annual Research Achievements |
【研究の概要・意義】 本研究ではトポロジカル結晶絶縁体SnTeに磁性元素をドーピングして、強磁性のトポロジカル結晶絶縁体を作製する。トポロジカル絶縁体が時間反転対称性によってトポロジカル表面状態が保護されているのに対して、トポロジカル結晶絶縁体は結晶の鏡面対称性に起因している。そのため、磁性元素ドーピングによって時間反転対称性が崩されてもトポロジカル表面状態は保護される可能性が高い。それを実証するため、また強磁性トポロジカル結晶絶縁体を作製するための基礎研究を行う。まず、方法としてはMBEによって高品質なSnTe薄膜の作製条件を見出し、それを最適化することで安定した結晶成長を可能にする。そして磁性元素をドープし、強磁性になる条件を結晶構造、磁性の両方から探っていく。従来行われてきたトポロジカル絶縁体に磁性元素をドーピングする系では、意図的に時間反転対称性を壊して表面状態のギャップを開くことを目的としているが、本研究では表面状態のギャップを開かずに磁性を付与することを目的としている。表面状態を壊さずにマスレスディラックフェルミオンがキャリアとなる強磁性トポロジカル結晶絶縁体が作成できれば、極めて高い移動度のスピンデバイスに向けた薄膜材料の開発にもつながる。また、その過程でトポロジカル表面状態がどのように保護されるかを実験的に確かめることができる。 【研究成果】 MBE法によって成長条件最適化により良質な薄膜SnTe単結晶を得ることに成功した。そして量子コヒーレンス輸送の一種、弱反局在効果を観測し、それはトポロジカル表面状態由来であることを示した。また、ヨウ素のドーピングによって、SnTeの電気伝導(キャリア密度、移動度)を変調させることに成功した。そして、膜厚の調整によってバルクキャリア密度の低減に成功し、弱反局在効果について2次元性を確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の現在までの成果としては以下の通りである。 1. トポロジカル結晶絶縁体SnTe薄膜において、弱局在効果および弱反局在効果を観測 SnTe薄膜はSn欠陥が多く生じ、また良質な結晶成長自体も難しいことからその成長条件の最適化が必要である。まずMBEを用いて結晶成長速度、分子線フラックス量、基板温度などの結晶成長条件の最適化を行なった。その結果、原子層レベルで平坦な単結晶薄膜成長に成功した。その電気伝導を低温・磁場中において行なったところ、低温において弱局在効果と弱反局在効果の混合した磁気抵抗を観測した。これは、バルク寄与と表面状態寄与が合わさることで発現していることが分かった。 2. トポロジカル結晶絶縁体SnTe薄膜において二次元弱反局在効果を観測 さらに、キャリア密度を減らして表面状態寄与の優勢な電気伝導を示す薄膜作製に取り掛かった。具体的には薄膜の厚みを最適化することで、Sn欠陥を減らし、バルクホール濃度を減少させることを狙った。結果、それに成功し、それまで観測が難しかった弱反局在効果の2次元成分を分離することができた。また、バルク由来の弱局在効果もなくなった。 3. トポロジカル結晶絶縁体Snて薄膜においてヨウ素ドーピングによる電気伝導の変調を観測 SnTe薄膜にヨウ素をドーピングすることで、ヨウ素が格子欠陥を補償し、なおかつドナーとなることでバルクキャリア密度が低くなることが期待できる。結果的にはヨウ素ドーピングによって系統的なバルクキャリアの減少は観測できなかったが、移動度の大幅な増大と、バルク・表面キャリアの変調という結果が得られた。また弱反局在効果も消滅しなかったことから、ローカルな対称性があれば表面状態は保護される可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、今後の推進方策として以下の点を特に挙げる。 1. 角度分解光電子分光(ARPES)によって詳細にバンド分散を確認する ヨウ素ドープのSnTeについては、ドーピングによってフェルミレベルが変化していることが予想される。また、移動度の向上がバンド構造のどのような変化に由来しているかは興味深い。それらの解明のためにはARPES測定が必須である。 2. 成長カイネティクスの改良 SnTeはBaF2基板上に成長される事が多いが、ドロップレットの形成などがあるため原子層レベルでの成長が難しい。そこで、下地層を改良することで原子層成長を可能にし、膜厚の精密制御ができるようにする。それによって、デバイス化における問題も解決され、また表面が凹凸になることに由来する電気伝導のゆらぎも解消できると期待される。 3. スピンデバイスの試作によるスピン流の観測 スピン流の観測については、電極を微細加工して取り付けるなどデバイス化して、スピン蓄積を観測することが必要である。トポロジカル結晶絶縁体についてはまたトポロジカル表面状態にスピンが注入されたという報告はないため、スピンホール角など基礎物性的なパラメーターを求めるためにもスピンデバイス化を進める。 4. トポロジカル結晶絶縁体における磁性元素ドープによる特性の変化の検証 本研究のメインテーマである磁性元素ドープに関して、更に研究を進める。特に過去に報告のない磁性元素を結晶構造を変化させずにドープしたり、過去に報告のある磁性元素であっても、構造・磁性の評価を詳細に行うなどし、トポロジカル表面状態への影響を様々な側面から測定する。まず優先的に目指すのは、ディラック点の観測(STM,ARPESによって)、及び磁性元素ドープによってギャップが開くかの確認(電気伝導,STM,ARPES)である。トポロジカル絶縁体と比較してどのような違いがあるかは重要である。
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Research Products
(14 results)
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[Journal Article] Deposition and characterization of aluminum nitride thin films for a gate insulator2014
Author(s)
H. Oikawa, R. Akiyama, K. Kanazawa, S. Kuroda, I. Harayama, K. Nagashima, D. Sekiba, Y. Ashizawa, A. Tsukamoto, K. Nakagawa, N. Ota
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Journal Title
Thin solid films
Volume: 574
Pages: 110-114
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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