2015 Fiscal Year Research-status Report
電磁駆動式転がり操作技術を用いた高感度バイオセンサーの開発
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26870115
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平野 太一 東京大学, 生産技術研究所, 技術専門職員 (00401282)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 表面・界面センサー / 流体物性計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、電磁回転式非接触トルク印加装置による金属プローブの操作技術を用いて、転がり摩擦の大きさを高精度に計測し、その値の変化をその場観察できるような測定システムを構築し、このシステムを固液界面でおこる分子吸着反応や形態変化の過程を検出するためのセンサーとして開発することを目的としていた。
平成26年度には動作検証装置の改良と検出能力の比較・検討を行った。前者に関しては、将来的な医療現場での応用を見据え、電磁石駆動方式から永久磁石回転方式への転換を図った。使用する磁石の最適サイズを磁場計算から推察し、実際にアルミ球の転がり運動速度を測定することで、予想された印加トルクが発生していることを確かめた。後者に関しては、生体試料(10mPa・s)程度対応としては問題無いが、粘度の一次標準である水(1mPa・s程度)まで視野に入れた場合、測定精度が低下することが分かったため、幅広い液体に対して精度が保証されるように補正項の追加について検証を行った。
平成27年度は同様の駆動装置を用いた測定システムの応用範囲拡張を目指し、主に試料液面にディスク形状のプローブを浮かべ、その回転速度の変化を検出する方式について評価を進めた。この方式は、固液界面よりさらに観察が困難とされる気液界面および液液界面の状態変化をモニター出来る可能性を有している。非常にシンプルな装置構成で有りながら、低トルク領域において高価な市販の測定機を上回る性能が達成され、ゾル-ゲル転移点の見極めや表面単分子膜の降伏挙動に関して、より正確に測定することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通りに電磁石を使用した高性能の駆動装置を作成しただけでなく、安価で汎用性の高い駆動手法にも取り組み、計算と実験の両面から最適なシステムを模索し構築にまで至ったことは計画以上の成果であると言える。電磁石を使用した高出力・高性能システムは、定常回転運動以外の様々な運動モードを駆動可能であることから、本研究で得た知見により、これまで粘弾性測定や非線形挙動の測定ができなかった低粘性複雑流体に対しても定量的な評価が可能となり、新たな産業分野を開拓することも期待される。
また、当初の計画で運用を考えていた転がり摩擦計測法の測定精度を評価した上で、さらなる精度向上と測定対象物の拡張を目指し、浮上ディスク方式のプローブ使用についても考察、検証実験を行い、純水に対して0.5%以内という、当初の計画を上回る“驚異的な”測定精度を達成した。さらに、界面活性剤が形成する表面膜の粘度を測定したり、牛乳や豆乳などの表面皮張り現象をモニタリングしたりといった成果も出ており、バイオセンサーとしての応用に向け重要な知見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究成果を踏まえ、今後の研究は球プローブの転がり速度あるいは円板プローブの回転速度をリアルタイム検出するために、データ解析まで含めた測定システムの構築を目指す。円板プローブに関しては、液面に浮いている状態なので試料の不透明度に依存せず観察可能であり、一回転の周期を読み取る解析法から瞬時の回転速度を読み取る解析法に切り替えるのは比較的容易であると考えている。また、円板と試料セル底面との距離、つまり試料液体の厚みが重要なパラメータとなるため、円板の浮き沈みをモニタリングする機構も取り込みたいと考えている。
計画の後半で注力してきた浮上円板回転方式は、反応センサーとしての測定性能もさることながら、細管式粘度計を使用する以外に精度良く測ることは出来ないとされていた低粘度液体の高精度評価を可能とした。これにより粘度標準産業への参入が期待できる。さらに、学術的な研究に目を向けると、流体運動を記述する上で主要なパラメータとなるレイノルズ数と流れ場の関係を、ジオメトリーを変化させながら系統的に調べることができるという特長を有している。この関係性を単純な冪乗則や多項式によって定式化できるかどうかを検証し、今後の粘度計測技術の発展に生かせるような知見を得たい。
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Causes of Carryover |
本年度までの研究遂行によって、化学変化や分子の変性を捉えるセンサーとしての検出能を高めることに成功し、産業応用を視野に入れた「使い勝手の良さ」を向上させるため、リアルタイムで測定・解析・表示するようなシステムの構築を目指してきた。実験値とシミュレーション値との比較により、理論計算から数値予測可能な流動以外の成分が存在し、この成分が物性値算出を妨げる場合もあることが分かってきた。その条件を明確にするため追加実験の実施や流体研究を行う研究者との意見交換が必要で有り、期間延長を願い出て、該当分の研究費を次年度に使用することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の計画年度内で組み上げた測定装置の学術的・産業的な有用性をアピールするために、試料セルおよび円板プローブのサイズによってデータに相違があるか無いかを系統的に調べ、ジオメトリーを記述するパラメータの決定とそのパラメータに対する測定値の依存性を明らかにする。また、得られた成果を国内外で発表し、今後の方向性などについて模索するとともに、装置としての新規性とこれを用いた物性評価とを、それぞれ論文誌へ投稿し掲載を目指す。
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