2016 Fiscal Year Research-status Report
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26870117
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
豊田 裕美 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 特任助教 (90637448)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ナルコレプシー / 睡眠 / ケモカイン |
Outline of Annual Research Achievements |
ナルコレプシーは代表的な過眠症である。日中の覚醒レベルが低下するとともに、夜間の睡眠が断片化する。その他、入眠時レム睡眠、情動脱力発作等を主徴とする。患者の脳髄液中で、神経ペプチドであるオレキシンが顕著に減少しており、患者脳で、オレキシンを産生する神経細胞(オレキシン細胞)の脱落が認められる。オレキシンノックアウトマウスの表現型がヒトナルコレプシーに類似していることからも、オレキシンの脱落がナルコレプシーの原因と考えられているが、脱落のメカニズムはわかっていない。 研究代表者は、ゲノムワイド関連解析により、CCR1遺伝子のプロモーター領域およびCCR3遺伝子近傍に位置する一塩基多型がナルコレプシーと強く関連することを明らかにした。この結果は、独立した検体を用いた関連解析においても再現された。さらに、ナルコレプシー患者のCCR1およびCCR3の発現レベルは、健常者と比較して有意に低いことを見出した(Toyoda et al 2015)。 本研究では、CCR3遺伝子がナルコレプシー発症にどう寄与するかを知るため、Ccr3ノックアウト(KO)マウスを用いた。Ccr3 KOマウスの脳波を測定したところ、明期(睡眠期)の睡眠が断片化していることがわかった。これは、ヒトナルコレプシーの夜間睡眠の断片化に似ている。また、近年、ナルコレプシー発症と感染症との相関が複数報告されており、免疫系に影響を与える外的要因がナルコレプシー発症の引き金になることが強く示唆されている。そこで、外的要因を模倣するためLipopolysaccharide (LPS)をマウスに投与したところ、Ccr3 KOマウスは同胞野生型マウスよりも明期の睡眠がより断片化する傾向にあることがわかった。さらに、免疫組織染色により、Ccr3 KOマウスは同胞野生型マウスよりもオレキシン細胞数が約10%少ないことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Ccr3 KOマウスおよび同胞野生型マウスの頭部に、脳波・筋電図測定電極を外科的手術により装着して脳波測定を行い、覚醒量・レム睡眠量・ノンレム睡眠量を定量することで、Ccr3遺伝子の睡眠覚醒制御への寄与を検討した。野生型マウスと比較し、Ccr3 KOマウスは、明期全体に対する覚醒時間の割合が有意に高い一方、レム睡眠・ノンレム睡眠時間の割合が有意に低かった。明期の睡眠構造を解析したところ、Ccr3 KOマウスは野生型マウスより覚醒回数が多いが、1回の覚醒の持続時間は変わらないことがわかった。また、Ccr3 KOマウスは野生型マウスよりノンレム睡眠の回数が多い一方、1回のノンレム睡眠の持続時間は短いこともわかった。これは、Ccr3 KOマウスの明期のノンレム睡眠が、覚醒回数の増加により分断されていることを示す。このような睡眠の断片化は暗期には認められなかった。 次に、LPS腹腔投与により実験的に炎症を誘発した状態で同様の脳波測定を行った。野生型マウスと比較したCcr3 KOマウスの覚醒時間の割合はLPS投与前よりもさらに高くなり、ノンレム睡眠時間の割合はさらに低くなった。LPS投与前同様に、ノンレム睡眠が断片化する傾向も認められたが、野生型との有意な差は認められなかった。LPS投与による免疫賦活化は、両マウスの表現型の差を拡げるほど十分ではないと考えている。 さらに、免疫組織染色により、視床下部外側野のオレキシン細胞すべてをカウントしたところ、Ccr3 KOマウスは野生型マウスよりもオレキシン細胞数が約10%少ないことがわかった。オレキシンペプチド量およびオレキシン前駆体mRNA量には両マウス間で差はなかった。 以上により、CCR3遺伝子の機能低下により睡眠が断片化することを見出した。さらに、Ccr3遺伝子はオレキシン細胞の生存に対し保護的な役割を持つ可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、本年度の研究により見出したCcr3 KOマウスのノンレム睡眠断片化の分子メカニズムおよびCcr3遺伝子のオレキシン細胞に対する保護作用の機序を明らかにする。 先行研究により、睡眠が分断化するには、オレキシン細胞が85%以上減少する必要があることがわかっている。このため、Ccr3 KOマウスのノンレム睡眠の断片化は、今回見出したオレキシン細胞のわずかな減少(10%)のみでは説明できない。まずは、CCR3が中枢神経系のどの部位で機能しているか知るため、発現部位を同定する。また、オレキシン同様に睡眠覚醒制御に重要な役割を担うヒスタミン神経系との関わりを調べるため、Ccr3 KOマウスにおいてヒスタミン神経系の異常が認められるか、免疫組織染色により検討する。 また、本研究では、ナルコレプシーを引き起こすための外的環境要因としてLPSを採用し、Ccr3 KOマウスのノンレム睡眠断片化がよりひどくなる傾向にあることがわかったが、有意な差は認められなかった。今後は、別の免疫賦活化剤として、ウイルス感染を模倣できるpoly I:Cや、すでにヒトナルコレプシー発症との相関が報告されているAS03アジュバントを試す。 さらに、Ccr3遺伝子のオレキシン細胞に対する保護作用の機序を明らかにするため、①野生型マウスへの炎症誘発によりCcr3 陽性細胞が増加するかの検討(免疫組織染色)、②オレキシン細胞領域のケモカインプロファイルが変化するかの検討、③野生型とCcr3 KOマウス、および、各マウスへの炎症誘発前後で発現変化する遺伝子をマイクロアレイにより探索する。
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Causes of Carryover |
平成29年1月時点で、当初実施を予定していた実験をほぼ終了したが、小規模な追加実験を行えば、より高度な研究成果が得られる。また、現在本研究をもとに論文作成中であり、追加実験と平行した論文執筆および投稿作業に数ヶ月の時間を要することが想定されるため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
論文投稿および改訂作業のための実験に必要な試薬・消耗品類や、それに伴う交通費、論文の英文校正料、論文掲載料に用いる。
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[Journal Article] Evaluation of polygenic risks for narcolepsy and essential hypersomnia2016
Author(s)
Yamasaki M, Miyagawa T, Toyoda H, Khor SS, Liu X, Kuwabara H, Kano Y, Shimada T, Sugiyama T, Nishida H, Sugaya N, Tochigi M, Otowa T, Okazaki Y, Kaiya H, Kawamura Y, Miyashita A, Kuwano R, Kasai K, Tanii H, Sasaki T, Honda Y, Honda M, Tokunaga K.
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Journal Title
Journal of Human Genetics
Volume: 61
Pages: 873-878
DOI
Peer Reviewed
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