2014 Fiscal Year Research-status Report
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26870121
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岡田 泰和 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (10638597)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | カースト分化 / 表現型可塑性 / 行動の生理基盤 / 順位構造 / ドーパミン |
Outline of Annual Research Achievements |
トゲオオハリアリは形態的な女王ではなく,順位によって同型同大のメスの間で分業が生じる.本種を用い,女王とワーカーの間での脳・腹部での遺伝子発現比較を行った.その結果,栄養シグナルに関わる因子や幼若ホルモンシグナルがカースト分化を駆動している可能性が示唆された.なかでも,インスリンなど形態カーストの分化を駆動する遺伝子が,成虫の脳や腹部で異時的,異所的に発現を変えることで,行動カーストにおいても機能していることがわかってきた.現在,本種でみつかった候補遺伝子について他の種での機能について文献調査などを行い,比較生理学的知見を集積している. また,同日齢のメスの脳内物質量を調べたところ,羽化から7日後、女王の脳内のドーパミン濃度は、ワーカーの約1・2倍と高くなり、卵巣が急激に発達していた。さらにワーカーの背中にドー パミンを塗布投与すると卵巣が発達することがわかり,ドーパミンが産卵促進物質として機能していることを突き止めた.ドーパミンは他の膜翅目でも産卵促進活性が示唆されてはいるものの,因果関係を示した事例は非常に少ない.本種でのさらに詳細な実験によってドーパミンの受容体が脂肪体とよばれる,卵黄タンパクを産生しり器官で女王に特異的な上昇を見せていたことがわかった.このことは脳内で作られたドーパミンが血リンパに乗って体内に拡散し,腹部の脂肪体に情報をとどけていることを示唆しており,社会性昆虫の繁殖分化の鍵となる仕組みについて重要な知見が得られた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
比較遺伝子解析(トランスクリプトーム)により多くの興味深いカースト転換遺伝子候補を見つけることができ,本種の生理学・行動学モデルとしての有用性を確認することができた. また,脳内物質であるドーパミンについて,繁殖との因果関係を示すことができ,今後の比較生理学的解析,考察における重要な知見を得ることができた.
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Strategy for Future Research Activity |
トゲオオハリアリの比較トランスクリプトーム解析によって得られた候補遺伝子について,体内でのシグナル授受機構などについて,各組織に注目して詳細なメカニズム解析を行っていく.他の種類においても文献や公共のトランスクリプトームデータとの情報学的比較によって,カースト分化に頑健な機能を持つ遺伝子群や生理経路を同定し,比較生理学的考察を進める.
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Causes of Carryover |
実験用試薬等が現在研究室に若干の余りがあり,2014年度中に必ずしも購入する必要がなかったため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験用試薬の購入に充てる.
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Research Products
(6 results)