2016 Fiscal Year Research-status Report
移行経済期ベトナムにおける新規大卒労働市場と人的ネットワークの「正当化」機能
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26870131
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Research Institution | Kanda University of International Studies |
Principal Investigator |
伊藤 未帆 神田外語大学, 外国語学部, 講師 (90466821)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ベトナム / 大卒者 / 労働市場 / 入職経路 / キャリアパス / 国際情報交換 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、移行経済期ベトナムの労働市場における「平等性」概念とその変容について明らかにすることを目的とする。ベトナムの高学歴労働市場では、学歴取得者の急速な量的拡大によってその価値が多様化したことを一つの背景として、学歴以外の要件が労働者と企業とを結ぶマッチングメカニズムにおいて重要な役割を果たすようになってきている。本研究では、ベトナムにおける大卒者の、学校から職業への移行過程に焦点を当て、産業構造の変容とそれに伴う労働市場の拡大にともなって、本来であればうまく機能するはずの労働者をめぐる市場メカニズムが大きく混乱している現状に対し、学歴指標に代わる、あるいはそれを「補完」するものとして発達したさまざまな入職経路と、その後のキャリアパスのあり方を明らかにする。これにより、社会主義経済から市場主義経済への移行国において、これまで主として西洋社会で言われてきたような人的資本を基盤とする「平等性」概念が相対化されつつあることを示唆することが最終的な目的である。 二年目にあたる平成27年度は、前年度に行ったハノイ経済大学での新規大卒者の就職経路に関する予備調査の分析結果と、外資系企業における採用・昇進プロセスに対する聞き取り調査で得られた情報をふまえたうえで、多様化する入職経路が、就職後のキャリアパスに与える影響に焦点を当てたデータ収集と分析を行った。具体的には、アジア経済研究所とハノイ国家大学ベトナム学・発展科学院の協力によって実施した質問票調査(実施場所:ハノイ市内、調査対象:20歳代~50歳代の大卒男女160名)から得られたデータをもとに、大卒者の就職経路とキャリアパスに関する分析を行った。 三年目にあたる平成28年度については、出産のため、産前産後の休暇に伴う補助事業期間の延長(平成28年4月1日~平成29年3月31日)を申請し、日本学術振興会からの承認を得た(学振助―第743号)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ベトナム大卒者労働市場のマッチングメカニズムを明らかにする作業として、前年度の予備調査の成果をふまえたうえで、初職への入職経路だけでなく、転職活動を含めた就職後のキャリアパスとの関係にも目配りした、より精緻な分析枠組みの構築へと近づくことができた。この研究成果については、「現代ベトナムにおける学歴エリートのキャリアパス―制度論的アプローチに向けた予備的考察―」(荒神衣美編『2000 年代ベトナムにおける新たな社会階層の台頭』調査研究報告書、アジア経済研究所、2016 年)として発表し、広く研究成果の公開に努めた。 なお、平成28年度については、出産に伴う産前産後の休暇中につき、研究成果は発表していない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に行った情報収集、予備調査、および平成27年度の研究成果として提示した、入職経路からその後のキャリアパスまでを視野に入れた新たな分析枠組みをふまえたうえで、大卒者の就職過程とキャリア形成に関する量的調査を実施する。この調査結果をまとめたうえで、平成29年度中に国内外の学会での研究報告、および英文での論文執筆、雑誌投稿を行い、広く研究成果の公表を行いたい。 なお、平成28年度については、出産のため、産前産後の休暇に伴う補助事業期間の延長(平成28年4月1日~平成29年3月31日)を申請し、日本学術振興会からの承認を得た(学振助―第743号)
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Causes of Carryover |
当初計画では、平成27年度中にハノイ市内の複数大学の大卒者を対象とした量的調査を実施する予定であった。しかし、妊娠のため医療上の観点から海外渡航が制限されたことから、ベトナムにおける現地協力研究者との調査打ち合わせ、および調査の実施が事実上不可能になった。このため、量的調査の実施を目的とした予算については、産前産後休暇終了後の平成29年度に繰り越し、使用することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度、および平成27年度の研究成果で得られた分析枠組み、および予備調査の結果を十分にふまえたうえで、ハノイ市内に所在する複数大学の卒業生を対象とした大卒者の就職過程とキャリア形成に関する量的調査を実施する。この調査結果をまとめたうえで、平成29年度中に国内外の学会での研究報告、および英文での論文執筆、雑誌投稿を行い、広く研究成果の公表を行いたい。
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