2014 Fiscal Year Research-status Report
近現代日本における古典文学の受容と関連文化財の評価の連動性
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26870132
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永井 久美子 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (10647994)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 『源氏物語』 / 日本文学史 / 日本美術史 / 文化財 / 記紀神話 |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度は研究発表を4件行い、うち2件の内容を活字化し、残り2件について研究報告ならびに論文を執筆中である。主な論点と研究実績は、次の3点にまとめることができる。 (1)『源氏物語』の国際的評価と文化財保護の関連性。日本の文化財保護制度が、廃仏毀釈に対する寺宝の保護から移行し、対外的に日本の歴史・美術を代表する文化財を選定する役割を担い始めた1930年代前後、『源氏物語』の写本ならびに『源氏物語』を題材とする絵画の文化財指定が進められた。この背景として、英語訳の刊行を契機とする『源氏物語』の国際的認知、近代的文学研究における本文整備の進行、そしてやまと絵の再評価が挙げられることを論じた。これらの論点については、日本比較文学会東京支部例会ならびにベトナム国家大学ハノイ校日本学科での研究会にて発表を行い、前者では昭和10年代の『源氏物語』評価を、後者では「源氏物語絵巻」の国宝指定までの経緯を追った。それぞれ研究報告と論文を準備中である。 (2)国宝「源氏物語絵巻」の国際的見地からの再検討。第12回国際美術史学研究集会Ecole Internationale de Printemps(EDP)にて、国宝「源氏物語絵巻」の画面分割方法を分析、人物の関係性の表現を中心に、日本における物語の絵画化の手法を論じた。この内容は、EDP報告集に日・英・仏語の要旨を掲載したほか、『人文・自然研究』第9号(一橋大学)に論文を発表した。 (3)記紀神話の近代における再話の研究。主に明治期に対外的な土産品として人気を博した外国語訳絵本「ちりめん本」のシリーズにおいて、英語訳を契機として記紀神話の再話がなされ、その内容が日本に逆輸入され、記紀神話が人口に膾炙する起因の一つとなったことについて、ウダヤナ大学(インドネシア)で開催された第2回アジア未来会議にて発表を行い、会議の論文集に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定した口頭発表をいずれも実施することができ、活字化の進捗状況もほぼ当初の計画通りである。『源氏物語』については、平成27年度以降の課題とする予定であった宗達筆関屋及澪標図屏風についての調査も開始することができたため、『源氏物語』関連文化財に対する広い視野を持ちつつ、今年度以降、考察をまとめたいと考えている。 『源氏物語』と記紀神話のちりめん本の研究を通して改めて実感したことは、外国語訳の普及と対外的な日本文化の発信との密接な関連性である。今後は翻訳の問題にもより注目しながら研究を進める必要があると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度からの継続課題として、『源氏物語』関連文化財の保護をめぐる議論の活字化の遂行をまず挙げることができる。記紀神話についても、近現代における受容の問題をちりめん本以外の観点から考察するにあたり、『古事記』『日本書紀』の古写本の文化財指定の問題に取り組む予定である。平成27年度から28年度にかけては、当初の計画にも挙げた通り、『万葉集』『古今和歌集』をめぐる文化財の問題についても議論を広げたいと考えている。
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Causes of Carryover |
1月に希望していた北米の美術館への調査訪問を、本務校の用務との日程の都合上遂行できなかったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
北米への調査出張の日程調整を再度試みるほか、今後とも国内外の文化財の調査を積極的に遂行する。
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