2016 Fiscal Year Research-status Report
ヨーロッパ理念とその政治的・社会的反響――ロマン主義、欧州統合、レイシズム
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26870160
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
片岡 大右 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 研究員 (30600225)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | レイシズム / 蓮實重彦 / ミシェル・フーコー / シャンタル・ムフ / スタンダール / 欧州統合 / ポール・ベニシュー / ロマン主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
第二次大戦後のフランス社会におけるレイシズムの変容に関する文献を渉猟した。 森千香子『排除と抵抗の郊外』の書評論文「都市社会学の冒険」を執筆し、トゥーレーヌ派とブルデュー派の二つの社会学のあいだでなされた著者の研究の独自性を浮き彫りにしつつ、近年のフランスの社会政策のレイシズム的次元に焦点を当てた。 『論集 蓮實重彦』に「「昨日」の翌朝に、「アカルイミライ」の約束もなく」を寄稿した。ヨーロッパ近代をめぐるフーコーの議論との関係を軸として、文学論と映画論双方を視野に収めつつ、近代の経験と歴史の問いが著者にあっていかに生きられているのかを明らかにした。19世紀中葉の「認識論的切断」を説く蓮實の議論は、同世紀の前半と後半のうちに曖昧な連続性を認めるベニシューのロマン主義論のような立場と架橋しうるものだろうか。このような問題意識を背景として書かれた「サン=レアルからスタンダールにかけての文学=鏡の変容」では、17世紀以降のヨーロッパ文学の展開の中でのスタンダールの位置づけを再検討し、しばしば世紀後半のフローベールとは異質の詩学の体現者とみなされる『赤と黒』の著者の文学意識の現代性を明らかにした。 シャンタル・ムフ「ブレグジットは有益なショックになりうる」を翻訳し、解説「EU離脱論の背景」において、クヴェラキス、バリバール、ロルドンらの最近のEU論を紹介・整理した。 論考「「リベラルな西洋」の危機とヨーロッパの行方」を発表し、政治的表舞台における「リベラルな西洋」の価値観の顕揚の背後で確立してきた「欧州立憲体制」(モラフチーク)の現状を、ギリシアのシリザ政権が緊縮受け入れの是非を問うた国民投票とその帰結、米国におけるトランプ政権誕生後の欧州における諸議論などを通して明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「ヨーロッパ」理念とその展開を軸にして――それと「近代」の問いの絡み合いに注目しつつ――多元的な主題にアプローチするという本研究の企図は、様々な機会に恵まれて論考のかたちで公表しえている。平成29年度に向けてのいくつかの企画準備が実を結んだこととあわせ、おおむね順調に進展しているといってよい。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である平成29年度にも、すでにいくつかの企画が進行中ないし決定済みである。これらを着実にこなしつつ、研究をまとめ上げていきたい。
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