2022 Fiscal Year Annual Research Report
A Study of the Influence of the Five Schools on the Musical Techniques of Kurokawa Noh
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26870182
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
柴田 真希 東京藝術大学, 大学院音楽研究科, 研究員 (60721214)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 黒川能 / 謡本 / 民俗芸能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では黒川能の役者宅に所蔵される謡本の環境整備と目録作成を完了させた。同時に謡本のデータ化を実施し、黒川能の役者宅の謡本の系譜を確認した。謡本には手書きのものなども含まれるが、版本については、進藤流という現在は廃絶した脇方の流儀による謡本と江戸期に出版された観世流の謡本、および黒川能謡本と呼ばれる平成時代に整備された謡本がある。進藤流の謡本は、貞享元年の高橋清兵衛版による謡本が複数の役者宅で確認できている。観世流の謡本は複数の出版年のものが確認でき、最も古いものだと元禄8(1695)年5 月山本長兵衛版の外組の百番本が確認できる。そのほか正徳6年出版のものも確認された。いずれも江戸期に出版されたものであるが、江戸期の黒川能は、藩から城内での演能を依頼された際に10番程度しか演じることができないと返答した衰退期を経て、享保13(1728)年に勧進能を催すなど、活動が非常に活発化し、大きく変化を遂げた。上記謡本がどのような経緯で、いつ黒川に流入したかは確認できなかったが、少なくとも五流においては江戸のある時期に変化を遂げた謡の古い形が黒川に伝承されていることを鑑みると、一定のタイムラグを経て黒川に謡本が流通し、結果的に変化を遂げる前の詞章が伝承されてきたことがわかる。変化以後の謡が記された謡本が流通するようになった後も、黒川では謡を変化させるのではなく、謡本を変化させてきたことが明らかになった。 なお、研究期間中はコロナ禍に見舞われフィールドワークを実施できなかったが、ようやく最終年度に王祇祭のフィールドワークを実施することができた。コロナの感染拡大防止の中で開催された王祇祭は、従来の方法や手順を一部改変したものとなった。こうした変化が今後の伝承状況にどのような影響をもたらすのか、引き続きの調査が必要といえる。
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