2016 Fiscal Year Research-status Report
拡張された心=物体――芸術制作における物体化された思考プロセスの解明
Project/Area Number |
26870204
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
平倉 圭 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 准教授 (90554452)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 拡張された心 / エンボディメント / 集合体 / 異種混淆性 / 芸術制作プロセス / パブロ・ピカソ / ロバート・スミッソン / 身体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、芸術制作における物体化された思考プロセスを明らかにすることにある。研究は理論的解明と作品の具体的分析の二面で行われる。 平成28年度は以下二つの大きな成果があった。 (1)論文「異鳴的うなり──ロバート・スミッソン『スパイラル・ジェッティ』」『アメリカン・アヴァンガルド・ムーヴィ』(森話社、2016年)の出版。ロバート・スミッソンには「泥の思考」というアイディアを始めとして、「拡張された心=物体」による思考の問題系がある。本論文は、スミッソンの作品『スパイラル・ジェッティ』(1971年)を、その物体的生成過程と映画とテクストに示された思考を統合的に分析することで、人と物が混淆して行う特異な思考の有り様を、当時のコンテクストに位置づけつつ解明した。 (2)論文「合生的形象──ピカソ他《ラ・ガループの海水浴場》における物体的思考プロセス」『表象』11号の査読通過。映画『ミステリアス・ピカソ』(アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督、1956年)においてピカソらは、絵画に物体化された「拡張された心=物体」による思考プロセスを記録している。本論文は、東京国立近代美術館が所蔵する絵画《ラ・ガループの海水浴場》と、その制作過程を記録した映画の高精細な調査にもとづき、ピカソらによる思考のプロセスを、諸メディアと諸アクターにまたがる集合的で異種混淆的な実践として解明した。論文は平成29年4月に刊行された。 さらに平成28年度は、拡張された心=物体による思考における「身体」の問題の重要性を掘り下げるため、主にパフォーマンス表現における身体について、理論と観察の両面を通した研究を開始した。これについては、平成29年度中に成果を論文にまとめる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までの研究を大きく総合し、パブロ・ピカソとロバート・スミッソンの作品が示す「拡張された心=物体」による思考について、理論と具体的な作品分析の両面から考察を行い、2本の論文として出版したため。さらにそこで得られた知見を、「身体」をテーマとしたさらなる研究へと展開しつつあるため。
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Strategy for Future Research Activity |
「拡張された心=物体」による思考の問題をさらに深く探求するため、芸術表現における「身体による思考」を研究する。主にダンスを中心とする身体表現において「身体による思考」がどのように起きているのか、それはどのような方法で研究できるのか、を具体的な作品観察、理論的考察、および身体表現の実践を通して考察する。
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Causes of Carryover |
ピカソ《ラ・ガループの海水浴場》およびスミッソン『スパイラル・ジェッティ』について、諸資料を用いた国内での調査・経費が当初想定より大きいものとなったこと、また育児の都合により長期間日本を離れることができなかったため、国内での研究成果を充実させることで論文を完成させた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は身体表現を中心的対象としつつ、文献調査、各種機材購入、国内外での事例調査のために助成金を使用する。
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