2014 Fiscal Year Research-status Report
中国の戸籍制度が農村から都市へ移住した子供たちの人的資本形成に与える影響
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26870206
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Research Institution | National Graduate Institute for Policy Studies |
Principal Investigator |
山内 慎子 政策研究大学院大学, 政策研究科, 助教授 (50583374)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 都市移住 / 中国 / 人的資本 / 健康 / 教育 / 戸籍 / 国際研究者交流 / オーストラリア |
Outline of Annual Research Achievements |
農村から都市へ移住する安価な労働力は中国の急速な経済成長を支えてきた。しかしその裏で、親と共に都市へ移住した子供は差別を受け、学力や健康の悪化が懸念されている。本研究では、中国の主要地域をカバーする独自のパネルデータを使い、出稼ぎする親と共に都市へ移住した子供の人的資本(学力や健康状態)が、農村部にとどまる子供や都市部の子供と比べてどう異なるか、そしてその違いは経年変化するかを分析する。さらに、移住者のための各市の政策や民間の取り組みを評価分析し、有効な差別緩和策に関する政策的インプリケーションを導く。
平成26年度には2008-2012年のパネルデータの整備を行い、移住者の子供たちが親と共に都市で暮らしているかどうか、子供たちの健康状態や教育水準がどの程度であったかを把握した。パネルデータは農村から都市部に移住した子供については5年間、もともと都市部に居住する子供や農村部出身で都市部へ移住しない子供については2008-2010年の3年間の分が構築された。都市部出身の子供のデータ年数が少ないのは2011年度から予算の削減のため移住者に対する調査のみに限られたためである。
この結果、農村からの移住者が家計長である世帯のうち16歳以下の子供が住んでいる家計は2008年で17%見つかった。この割合は都市世帯よりも低く、特に小学校入学後の子供が都市で移民である親と一緒に住んでいるケースが少なかった。この差は農村部からの移住者が一時的に都市に居住しているのにすぎないことを反映していると思われる。子供の健康状態や教育水準といった指標を見ると移住児童(120㎝前後、32㎏程度)は都市自動よりいくらか背が低く体重が少ない。またほぼ全員が就学しているが、都市児童の殆どが公立学校へ通うのに対して私立学校へ通う移住児童の割合は14%と高かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は現在までのところ、おおむね順調に進展している。研究課題の一つが農村出身で都市部に暮らす子供と都市部出身の子供との比較研究であったが、そのための個人レベルのデータは上記のようにおおむね整備された。都市部に移住した子供のデータについては、出稼ぎの一過性という特徴から多くの子供が次の年には同じ住所において見つからず、電話でも繋がらないというケースがあったため、継続して調査される子供の割合や特徴などをまとめる作業を行う予定である。また、下記のように個人レベルでなく市・コミュニティレベルのデータを加えて整備することによって、都市移住児童が都市出身児童と比べてどのような人的資本形成をしているかを検証することができる。
本研究における課題のもう一つは農村出身の子供のうち、親と共に都市へ移住した子供、親のみ出稼ぎに出たため農村部に取り残された子供、親と共に農村部に留まる子供の三タイプを比較することである。このためのデータ整備を平成27年度に進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は以下の二つの課題を検証するためさらなるデータ整備と分析を進める。一つは、都市部において、農村出身の子供と都市部出身の子供との間で健康状態や就学状態・学業成績に差がみられるか。農村出身者用の教育・医療サービスが整っている地域において差が緩和される傾向があるか。もう一つは農村出身者の子供のうち、親と共に都市へ移住した子供は、親のみ出稼ぎに出たため農村部に取り残された子供や、親と共に農村部に留まる子供と比べて、健康状態や就学状態・学業成績に差がみられるかである。
(1)については市ごとに作成されている農村出身者用の教育・医療サービスについて情報を集める。またRUMICデータのコミュニティに関する調査結果も同様に整備して個人レベルのデータと結合する。そしてコミュニティの環境や移住先の行政サービスが移住児童の健康・就学状態に与える影響を分析する。農村出身の子供と都市出身の子供ではデータで捉えられていない居住環境などが違うかもしれないが、こうした違いから生ずる学業・健康面の差を排除し、純粋に移住によって生じた差のみを推計するため、Propensity Score Matching (PSM)という手法を用いる。つまり様々な面(出身地域、性別、年齢、親の教育水準など)で似通っているが一人は農村出身で、一人は都市出身という子供のペアを特定し比較するのである。そして、この比較を2008-2010年のデータに繰り返すことにより、推計される差異が経年変化するかどうかを調べる。(2)についてはデータ整備を進める。
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Causes of Carryover |
物品購入に必要な経費が予定していた額よりも低かったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
データ整備に必要な人件費に充てる予定。
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