2015 Fiscal Year Research-status Report
越境文学における作家のアイデンティティ形成 ― ミラン・クンデラの試みを中心に
Project/Area Number |
26870248
|
Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
田中 柊子 静岡大学, 情報学部, 講師 (20635502)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 越境文学 / アイデンティティ / ローカル / 世界文学 / 翻訳 / ミラン・クンデラ / 亡命文学 / オートフィクション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、作品が翻訳を通して国境を越え、世界的に読まれるグローバル化の時代に、越境作家がローカルで個人的な要素や、作家としてのアイデンティティをどのように意識し、作品を書いているのかを考察するものである。越境作家の多くは、外国人作家あるいは「他者」として作品を発表するため、自分の複雑な文化的・言語的背景とどう向き合い、何を表現するかという問題が浮き彫りにされる。ミラン・クンデラの試みを切り口に越境作家の企てと表現上の実践を明らかにする。本年度は、前年度のテーマ「越境作家におけるローカル性の表現」を深め、国際中欧・東欧研究協議会第9回世界大会での研究発表で、ミラン・クンデラの小説における、フランス語やフランスでの経験を介してアダプテーションされたチェコ独特の概念やものの見方などの表現について考察した。また、2016年7月21日~27日にウィーン大学にて開催される国際比較文学会第21回大会で、“Le choix linguistique et l’identite des ecrivains frontaliers ― autour de la tentative de Milan Kundera ―“(越境作家の言語選択とアイデンティティ―ミラン・クンデラの試みを中心に)の題目で研究発表を行う予定であるため、その準備として本研究の残りの二つのテーマである「世界の読者に向けた私小説あるいはオートフィクション」と「フィクションでない言説を介した作家のアイデンティティ形成と作品の受容」に関する調査を進めた。この研究発表では母語以外の言語で執筆することを選択した越境作家に注目し、彼らが元の文化・言語コンテクストにもとづくローカルな要素や個人的体験を新しい言語でどのように扱い、どのように作家としてのアイデンティティを形成していくかを考察する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は「世界の読者に向けた私小説あるいはオートフィクション」をテーマとして、越境作家が、複数の国、言語、文化の間にいるという自分の立ち位置を創作の源としていることについて調査、分析を行う予定であった。これに従い、ジョゼフ・コンラッド、ウラジーミル・ナボコフ、アゴタ・クリストフ、パトリック・シャモワゾー、リービ英雄などの自伝的虚構作品を検討し、越境作家が自分について文学を書く必然性、あるいは書かない必然性を考察するという作業に着手した。しかし、本年度の後半からは産前産後休暇および育児休暇を取得したため、研究を一時的に中断せざるを得なかった。休業中も本テーマを扱う研究発表の準備をするなど作業を進めたが、予定より半期程度の遅れが生じている。
|
Strategy for Future Research Activity |
2016年7月21日~27日にウィーン大学にて開催される国際比較文学会第21回大会で、“Le choix linguistique et l’identite des ecrivains frontaliers ― autour de la tentative de Milan Kundera ―“(越境作家の言語選択とアイデンティティ―ミラン・クンデラの試みを中心に)の題目で研究発表を行う予定であり、そこでは母語以外での執筆についてクンデラと他の越境作家のケースを比較検討する。この発表に向けて、まだ十分に検討されていない残りの二つのテーマ「世界の読者に向けた私小説あるいはオートフィクション」と「フィクションでない言説を介した作家のアイデンティティ形成と作品の受容」に関して、調査、分析を行う。また「越境作家の言語表現」、「越境と創造」といったテーマでストラスブール大学と提携してシンポジウムやワークショップを開催できるか比較文学研究科の教員に打診する。実現が難しいようであれば、日本フランス語フランス文学会のアトリエでの開催を検討する。
|
Causes of Carryover |
2015年10月1日から産前・産後休暇を取得し、その後育児休暇も取得したため、その間、研究を行うことができず、研究費の使用も計画通りに行うことができなかった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究期間の延長を申請し、約半期遅れで、研究計画に沿った形で使用していくことを考えている。
|
Research Products
(2 results)