2014 Fiscal Year Research-status Report
金属鉄から水素を発生する新奇ヒドロゲナーゼの反応機構の解明
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26870360
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
若井 暁 神戸大学, 自然科学系先端融合研究環重点研究部, 特命助教 (50545225)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ヒドロゲナーゼ / 微生物 / 金属 / 腐食 / メタン生成菌 / 水素 / 酵素 / 微生物腐食 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、申請者が発見した鉄腐食性のメタン生成菌のみが持っている新奇ヒドロゲナーゼを精製し、その反応機構を明らかにすることである。微生物による金属腐食の大きな問題は、反応機構が不明ということである。申請者は、世界に先駆けて金属腐食能とリンクした新奇ヒドロゲナーゼを発見している。本研究では、本酵素を精製して金属腐食能を直接証明し、さらに、立体構造を決定することで新奇反応機構の解明を目指す。本酵素の反応機構の解明は、固体界面で機能する新奇酵素の開発や有効な微生物腐食防食剤の開発等の発展性を持っており、学術面と応用面から価値のある研究である。さらに、金属腐食のコストは日本で約2兆円/年も掛かっており、経済的な側面からも実社会への貢献が大きい。 本目的を達成するため研究期間内に、次の二点を明らかにする。新奇ヒドロゲナーゼを精製し、単独で金属腐食が生じることを証明する。そして、新奇ヒドロゲナーゼの立体構造を決定し、その反応機構を明らかにする。 平成26年度は、新奇ヒドロゲナーゼの精製について重点的に行い、水素発生条件の検討、メタン菌からの精製、および大腸菌での異種発現を行った。水素発生条件の検討は概ね完了し、その条件を用いてメタン菌からの酵素精製を検討している。酵素精製については、当初懸念された通り、酸素により急速に失活してしまうため、無酸素条件での精製法の確立を進めている。また、大腸菌での異種発現については、メタン菌と大腸菌の生物種の差から遺伝子暗号(コドン)の頻度の問題が懸念されたため、人工合成により大腸菌のコドン使用頻度に合わせて遺伝子を作成した。 平成27年度は、前年度までに得られた情報に基づいて研究を進め、メタン菌あるいは大腸菌で発現させた酵素を用いて結晶化、および、X線結晶構造解析を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、鉄腐食性メタン生成菌のみに確認されている新奇ヒドロゲナーゼを精製し、その反応機構を明らかにすることである。したがって、平成26年度は、新奇ヒドロゲナーゼの生化学的な特徴を理解するとともに、酵素の精製を目指して、以下の三項目を実施した。 a) 水素発生条件の検討:精製を行う上で酵素活性の測定は必須である。したがって、最初に、酵素活性の至適条件(pH、温度、塩濃度)を決定した。嫌気瓶に鉄ホイル(Fe=99.9%以上:10×10×0.1 mm)の入った緩衝液を用意し、N2ガスで置換したところに、鉄腐食性メタン生成菌の培養上清を接種して、種々の条件で水素発生量を調べた。その結果、pH 7、40度、3% NaClを粗酵素液の至適条件として決定した。 b) メタン菌からの精製:本酵素が腐食原因の因子であることを直接証明するために、a)で決定した条件を用いて活性を追跡することで、メタン菌培養液からの酵素精製を目指した。ヒドロゲナーゼが酸素で失活する可能性があったため、簡易の嫌気グローブボックスを用いて操作を行っていたが、鉄腐食培養液中に大量に存在する鉄イオンが酵素精製の操作において顕著に悪影響を及ぼした。平成27年度は、鉄培地ではなく、水素をエネルギー源とした鉄抜き培地を用いて培養を行い、酵素精製を検討する。 c) 大腸菌での異種発現:メタン菌からの精製が難しいこともあり、当該酵素の大腸菌での異種発現を検討している。ゲノム情報に基づき、当該酵素の推定アミノ酸配列から大腸菌のコドン使用頻度を持つ遺伝子を人工合成した。サブユニットが二つ存在するので、一つのベクター上に二つの遺伝子を導入し、それぞれの上流に誘導プロモーターがあるものと、誘導プロモーター一つでモノシストロニックに発現できるプラスミドの二種類を構築した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に引き続きメタン菌からの酵素精製と大腸菌での異種発現酵素調製を続けると共に、調製した精製酵素もしくは異種発現酵素を用いて、タンパク質結晶の作成、およびX線結晶構造解析を実施し、その反応機構を解明する。 a) メタン菌からの精製:精製操作に悪影響を及ぼす高濃度の鉄の持ち込みをよくせいするために、水素培養菌体を用いて酵素精製を目指す。 b) 大腸菌での異種発現:メタン菌由来当該ヒドロゲナーゼ遺伝子を持つプラスミドを大腸菌に導入し、嫌気培養下で酵素の生産および精製を試みる。精製酵素にHisタグを付与しておくことで、精製ステップをシンプルにし、酸素への接触による阻害を最低限に抑える。 c) 結晶作成条件のスクリーニング:b)で大量に発現した酵素を用いてタンパク質の結晶を作る。異種発現酵素は、活性中心等の修飾が正常に行えていない可能性もあるので、発現タンパク質を用いて結晶化条件を確定した後、メタン生成菌から精製した酵素でも結晶化を行う。 d) X線結晶構造解析:結晶が作成できた酵素(精製酵素もしくは異種発現酵素)を用いて、Spring-8にてタンパク質の結晶構造解析を行う。新奇ヒドロゲナーゼは、既知のヒドロゲナーゼとの相同性が低く、金属表面との反応ドメインでこれまでにない構造を取っている可能性がある。この構造を明らかにし、既知ヒドロゲナーゼとの立体構造の比較から、金属表面から電子を受け取る(奪い取る)ドメインを特定する。
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