2014 Fiscal Year Research-status Report
セントロメアRNP複合体の動態解析と染色体分離における作用機序
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26870442
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
井手上 賢 熊本大学, 自然科学研究科, 助教 (20420250)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ノンコーディングRNA / セントロメア / 染色体分離 / RNP / 抗がん戦略 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、哺乳動物細胞の細胞分裂において、セントロメア領域から産生されるノンコーディングRNAが、染色体分離過程を制御する分子メカニズムを明らかにすることにある。またセントロメアRNAのノックダウンが新たな抗がん戦略になりうるかを模索した。 本年度は、セントロメア由来ノンコーディングRNAのノックダウン細胞が、姉妹染色分体の異常分離を示すことを明らかとした。このRNAに結合する因子として同定したRBMXについて解析し、この因子のノックダウン細胞が、セントロメアRNAノックダウンと同様に染色体分離の異常と、姉妹染色分体の異常解離を示すこと見出した。セントロメアRNAノックダウン細胞では、Aurora Bのリン酸化活性が異常に亢進するが、この因子のターゲットとして知られるSororinについて着目した。Sororinはコヒーシン制御因子として知られており、そのノックダウンはコヒーシンの解離により姉妹染色分体の異常解離を示す。Sororinのコヒーシン保護活性はAurora Bによるリン酸化によって失われることが報告されており、実際セントロメアRNAノックダウン細胞でSororinタンパク質量の顕著な減少が確認された。上述のRBMXにはコヒーシン制御に関連してSororinと競合する関係にあるWaplと相互作用する報告が有る。これらの知見からセントロメアRNAとそれに結合するタンパク質の複合体(セントロメアRNP) が、分裂期における染色分体の構造維持に関わる可能性を見出した。 ヒト子宮頸癌由来のHeLa細胞におけるセントロメアRNAのノックダウンは、染色体分離の異常により著しい増殖阻害を示す。一方でヒト正常組織由来の培養細胞TIG-1では同様の阻害は観察されなかった。この結果からセントロメアRNAのノックダウンが、がん細胞にのみ効く抗がん戦略になりうる可能性を考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、セントロメア由来RNAのノックダウンが染色体分離の異常を引き起こす原因の一つが、姉妹染色分体の異常解離にあることをChromosome Spread実験により明らかとした。そのメカニズムが、染色分体を束ねるコヒーシンの制御にある可能性について検討し解析した。セントロメアRNA結合因子として同定したRBMXには、コヒーシン制御の機能が有るとの報告例があり、RBMXのノックダウンはセントロメアRNAノックダウンと同様に妹染色分体の異常解離と染色体分離異常を示すことが明らかとなった。同じくコヒーシン制御に関わり、ノックダウンが妹染色分体の異常解離を起こすSororinに着目した。SororinはAuroraBのターゲットで、リン酸化されコヒーシン保護能を失うことが報告されている。セントロメアRNAノックダウン時には、AuroraBの活性が異常亢進するため、Sororinのノックダウンした場合と同じ効果が起きる可能性を考えた。実際にこの時Sororinのタンパク質量が顕著に減少することが観察した。以上の結果から、セントロメアRNAとタンパク質の複合体(セントロメアRNP)がコヒーシンの制御に関与するモデルを構築することが出来た。次年度ではセントロメアRNPの細胞内機能の一つとしてこのモデルの検証を行う。 ヒト子宮頸癌由来のHeLa細胞ならびに骨肉腫由来のU2OS細胞におけるセントロメアRNAのノックダウンは、染色体分離の異常により著しい増殖阻害を引き起こす。この結果は、既存のAuroraB阻害剤ががん、正常細胞の区別無く細胞死を引き起こすことと比較して、セントロメアRNAのノックダウンが、がん細胞にだけ作用する副作用の少ない抗がん戦略になりうる可能性を示唆している。 以上のように本申請の年次計画を充分に消化できたと考えており、なおかつ次年度の計画にスムーズに移行している。
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Strategy for Future Research Activity |
一年目の実績として、申請者がセントロメアRNA結合因子として同定したRBMXと、AuroraBそしてAuroraBのターゲットとして知られているSororinが、コヒーシン保護に働いており、セントロメアRNAのノックダウン細胞では、RBMXのクロマチンへの局在不能と、SororinのAuroraBからの異常リン酸化によるコヒーシン保護機能の失活が原因で妹染色分体の異常解離が発生するというモデルを構築することが出来た。本年度はこのモデルを実証する。まずはセントロメアRNAノックダウン時における、RBMXならびにSororinのコヒーシン保護機能の失活が、クロマチン結合能の消失に有ることを掴む。その為に、クロマチン画分の単離精製実験や、免疫染色による細胞内局在の精査によってこれらの因子の挙動を精査する。 また申請者はこの他にも複数のセントロメアRNA結合因子候補を同定してるため、これらの因子のRNPとしての関与の可能性を検討する。具体的にはこれらの因子のノックダウンの影響、抗体染色による細胞内局在の精査など細胞分裂のいずれのステップに対して機能しうるか等を検討する。 ヒト子宮頸癌由来のHeLa細胞ならびに骨肉腫由来のU2OS細胞におけるセントロメアRNAのノックダウンは、染色体分離の異常により著しい増殖阻害を引き起こす。一方ヒト胎児腎臓正常組織由来のHEK293細胞ならびに繊維芽細胞由来TIG-1細胞では増殖に阻害は起きなかった。RNAノックダウン効果の違いの原因を探るべく、該当する細胞間で、セントロメアRNAと結合因子の結合に違いが有るか否かを免疫共沈実験で検討する。 セントロメアRNPの働きについて、想定していた染色体分離過程への関与のみならず、その後の細胞分裂への関与に関する知見の取得も目指す。またセントロメアRNAをターゲットとした抗がん戦略の可能性への知見も収集する。
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Causes of Carryover |
各予算とも研究の進捗状況に応じて、必要額を使用してきたが、予想よりも若干ではあるが使用額が下回った。ただし計画自体は概ね順調に遂行されており、予算未使用による遅延などは生じていない。未使用分は次年度の計画遂行のためにに当て、滞り無く実施する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度の未使用分と合わせ、次年度では、充分な予算をあて、申請計画の遂行に務める。未使用分はほぼ消耗物品費であり、実験上の必要な物品を必要に応じて、滞り無く使用する計画である。
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