2015 Fiscal Year Research-status Report
85Krを用いた湧水年齢の高時間分解能での解明と実用化
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26870448
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
利部 慎 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 助教 (20608872)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 地下水 / 滞留時間 / クリプトン85 / 熊本地域 / 富士山地域 / 水循環 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までに現地における地下水中の溶存ガス採取システムを確立したことから、平成27年度は現地にて調査を実施し、85Krトレーサーを用いた高い精度での年代推定を試みた。具体的に調査を実施したのは熊本地域と富士山地域の2地域である。 人口70万人以上の熊本市においては飲用水源のすべてを地下水で賄っている。このような地下水資源の利用が盛んな熊本地域では、将来にわたる持続的な地下水利用や地下水管理を考える上で、地下水の年代(滞留時間)の解明が重要な情報となる。そこで、地域の地下水問題となっている硝酸性窒素の負荷域である熊本市北部地域を対象にして、浅井戸1地点と、深井戸2地点において2015年8月に85Kr法による年代推定調査を実施した。その結果、浅井戸における85Kr大気換算濃度は1.454±0.076Bq/m3、平均滞留時間は0.4±0.9年だった。同様に、深井戸Aでは0.422±0.017Bq/m3、平均滞留時間は17.5±0.5年であり、深井戸Bでは0.215±0.011Bq/m3、平均滞留時間は25.0±0.5年であった。また、浅井戸では2本のサンプルを得て、再現性のチェックも実施しており、両計測結果間に若干の濃度差はみられるものの、採取時や放射能測定時の誤差を考慮するとほぼ同程度の値と考えられ、本研究で得られた地下水年代は妥当な計測結果と見なすことができる。 また、富士山地域においては、名水百選に選定されている柿田川湧水において現地調査を実施した。地下水利用が盛んな富士山地域では、将来にわたる持続的な地下水利用や地下水管理を考える上で、地下水の年代(滞留時間)の解明が重要な情報となる。そこで、本手法を用いた年代推定調査を2015年9月に実施した。得られた85Kr大気換算濃度は1.022±0.028 Bq/m3であり、平均滞留時間は5.2±0.4年と推定された。この地下水年代は、先行研究により他の手法を用いて推定された年代と比較して、より年代幅が限定され、かつ精度の高い値であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、1年目で従来の85Krガス採取システムの改良を、2年目で現地適用の実施だったが、実際の進捗状況では、研究開始後に速やかにガス採取システムの改良を施すことができ、熊本地域のみならず、都城地域、富士山地域において現地適用を実現した。また得られた地下水の滞留時間(年齢)は、他の年代トレーサー(CFCs法やSF6法)と整合的な値が得られることが確認されたうえ、再現性も確認することができた。 熊本地域では、地域の喫緊の地下水問題である硝酸性窒素を念頭に置いた調査計画を掲げ実施した。熊本地域における地下水の硝酸性窒素の経年変化をみると、硝酸性窒素削減計画が策定された2005年以降も各地で濃度は上昇し続けており、汚染防止対策を行っているのにもかかわらず濃度の顕著な低減傾向はみられていないのが実情であったことから、硝酸性窒素削減計画の有効性を、滞留時間と地下水中の硝酸性窒素濃度の経年変化から検証することができた。 また、富士山地域では、過去に複数の研究により地下水・湧水の滞留時間が推定されてきたものの、その推定値は大きな誤差を有した確度の低いものであった。本研究で得られた滞留時間は、先行研究により他の手法を用いて推定された年代と比較して、より年代幅が限定され、かつ精度の高い値であった。本手法の現地適用性が実証され詳細な年代推定が確認されたことから、当該地域の水循環・流動機構に対して時間スケールを定めることができ、今後の研究展開の可能性を大いに広げる結果といえる。 よって、当初の計画以上に進展していると評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、これまで蓄積した成果の発信に精力を注ぐ所存である。既に学会発表は4件(2件は平成28年度:エントリー済み)実施しており、独創性の高い本研究の注目度は高まっている。今後は国際誌の学術雑誌への投稿・受理を目指して、2年間で蓄積した研究実績を発信する。 また、昨年度の10月からは、研究代表者が任期なしのポストを長崎大学環境科学部に得ることができた。これまで主に調査活動を実施してきた熊本地域のみならず、長崎県島原地域などでの調査の実施も見据えている。当初計画では、阿蘇カルデラ地域の湧水を対象とした調査を計画していたが、異動に伴い研究実施地域の変更は避けられないが、既に新たな研究地域として島原地域を選定し、CFCs法やSF6法を用いて湧水の年齢推定を実施に着手している。そして、バラエティに富んだ年齢分布が存在していることを捉えている。今後はこれまでの実績を踏まえ、85Kr法を基軸とした高い精度での年齢推定の検証作業を実施してゆく計画である。
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Research Products
(3 results)