2016 Fiscal Year Research-status Report
消化管粘膜上皮における味覚・嗅覚関連物質受容と経上皮膜イオン輸送制御機構
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26870487
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
唐木 晋一郎 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 助教 (00363903)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 消化管ケミカルセンシング / 経上皮イオン輸送 / Ussing chamber / quercetin / 腸粘膜バリア機能 / caco-2 / 上皮膜静電容量 / 等価回路 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度(平成28年度)初頭、ブドウの果皮に含まれる viniferin による消化管粘膜におけるアニオン分泌作用に関する論文を Physiological Report 誌に発表した。この論文に発表したデータからは、低濃度の viniferin は腸粘膜のバリア機能を高める可能性のあることが示唆されていた。そこで、viniferin をはじめ、各種ポリフェノール類の低濃度における腸上皮への作用を検討した結果、タマネギをはじめ、多くの植物に含まれるフラボノールである quercetin 等が、ヒト結腸上皮(手術検体)においてコンダクタンス(Gt)を減少させ、腸上皮のバリア機能を高めることを示すデータが得られた。そこで、ヒト上皮細胞由来の細胞培養株 Caco-2 を用い、quercetin の効果を検討したところ、手術検体と同様の効果を測定することができたため、Caco-2 を用いてまずは、容量‐作用曲線を作成し、続いて作用機序に関する実験を開始した。しかし、現時点では、作用機序を明らかにするデータは得られていない。 Quercetin 以外にも、食品に含まれる各種天然物化合物について Caco-2 でのスクリーニングを行い、茶等に含まれる kaempferol 等のフラボノールや、以前の研究で作用を報告していた thymol(香草タイムの香気成分) 以外にも、オレガノの香気成分 carvacrol 等のモノテルペン、クローブの香気成分 eugenol 等に活性がみられることを明らかにした。 短鎖脂肪酸の作用については、GPR41/GPR43-KOマウス実験によって、GPR41の関与を明らかにしたが、ヒト結腸や caco-2 では短鎖脂肪酸は作用を示さないことを明らかにした。しかし、ヒト回腸粘膜上皮では短鎖脂肪酸が作用することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、当初の研究計画を修正し、腸粘膜を管腔側から刺激する管腔内化学物質候補として、ブドウ果皮に含まれる ε-viniferin の作用と作用機序に焦点を絞って研究を進め、最終年度の初頭、Physiological Report 誌に論文を発表し、その後、天然物化合物を管腔内刺激化学物質をターゲットとしてスクリーニングを行い、研究実績において記載した各種化合物を見出した。短鎖脂肪酸の作用についても、KO動物を用いた受容体の同定に成功した、研究はおおむね順調に進展していると考えている。しかし、天然物化合物の作用については研究計画の途中で研究方針の修正を行って得た成果のため、発表は学会発表のみで論文には至っていない。また、ヒトにおける短鎖脂肪酸の作用については、予想した作用部位と異なる部位で作用が見られたことから、これは非常に重要なデータではあるが、これも学会発表はのみで、最終年度内に論文にはできなかった。以上の点から、研究は順調に進捗しているが、成果発表としてはやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で得た各種天然物化合物の作用機序は、物質によって共通の部分と異なっていると考えられる部分があり、各化合物の作用機序を検討するとともに、物質による機序のちがいが、腸管のケミカルセンシング機構において、どのような役割を果たしているのかを検討していく予定である。 今回の研究では、ヒト結腸粘膜上皮では短鎖脂肪酸は作用を示さなかったが、回腸では作用を示すことが明らかとなった。ヒト回腸の短鎖脂肪酸の作用は、マウスやラット大腸における作用とは機序が異なる可能性を示すデータが得られており、今後はヒト回腸での短鎖脂肪酸の作用機序の検討を行う計画である。 さらに、Caco-2 を用いた Ussing chamber 実験のデータから、実験法としての Ussing chamber 実験における新たなデータ解析法の開発につながるアイデアを得た。すなわち、上皮膜の等価回路から、状皮膜は静電容量を有することが考えられるが、この静電容量は、上皮膜に電圧パルスを入力したときの過渡電流の積分値から算出できる。そして、caco-2 上皮様標本への quercetin 投与は、この静電容量を一過性に変化させることを見出したのである。この変化は、上皮細胞の細胞膜面積がエクソ/エンドサイトーシスによって変化したためかもしれない。そこで今後は、静電容量の変化が上皮細胞のどのような形態変化によって惹起されているのかを明らかにする実験を計画中である。
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Causes of Carryover |
研究開始年度から大学に新学科が設立され、学年が上がるごとに業務負担が増えたことと、研究計画を途中で修正したために研究の進捗が遅れ気味になり、次年度に実験を順延しなければならなくなったため。また、最終年度に参加を予定していた学会の開催期間と学生実習の期間が重なり、学会に参加できなかったために次年度使用額が生じました。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
行えなかった実験のための実験動物や試薬等の消耗品と、学会発表、論文作成・投稿費として用いる予定です。
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Research Products
(3 results)