2014 Fiscal Year Research-status Report
短パルス放射光を用いた電場誘起原子ダイナミクスの時分割計測
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26870491
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
青柳 忍 名古屋市立大学, その他の研究科, 准教授 (40360838)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 時分割X線回折 / 圧電体 / 水晶 / 格子振動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、高輝度短パルス放射光を利用した電場下の原子ダイナミクスの精密計測技術を開発し、それを用いて実用的な圧電・誘電体材料および新規機能性材料の電場誘起原子ダイナミクスを解明する。 26年度は、主に水晶の電場下の原子ダイナミクスの計測に取り組んだ。水晶は、固有の振動数で正確、安定に振動することから、様々な電子機器の振動子に広く用いられている。水晶の圧電歪に伴う構造変化は、これまで静電場下のX線回折によって調べられてきているが、その原子変位は極めて小さいために、十分な精度での結晶構造解析は達成されていない。また、静電場によって引き起こされる静的な原子変位に加えて、圧電振動中の水晶の高速な原子変位ダイナミクスを明らかにすることが望まれる。 本研究では、水晶振動子に共振周波数の交流電場を印加するとともに、それと同期したSPring-8のシングルパルスX線を照射することで、共振状態の水晶振動子の時分割構造解析に成功した。シングルパルスX線と、水晶振動子に印加する交流電場間のタイミングを調整することにより、圧電振動中の水晶のX線回折パターンの時間変化を、SPring-8 BL02B1の湾曲型イメージングプレートで計測した。 データ解析の結果、共振周波数の交流電場に対する格子歪は、静電場に対する格子歪の1万倍に達することが分かった。共振状態では格子歪が極端に大きくなるため、振動中の原子変位ダイナミクスを精度よく計測することができた。結晶構造解析の結果、 共振状態での巨大な格子歪に対して、SiO4四面体は全く変形しないが、SiO4四面体をつなぐSi-O-Si角が弾性的に変化することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、高輝度短パルス放射光を利用した電場下の原子ダイナミクスの精密計測技術を開発し、それを用いて実用的な圧電・誘電体材料および新規機能性材料の電場誘起原子ダイナミクスを解明することである。電場によって誘起される構造変化はきわめて微小であるため、それを精度よく検出できるX線回折技術を構築することが、本研究の遂行にとって最大の課題である。26年度は、共振現象を利用することで、電場下の原子ダイナミクスを増幅し精度よく計測する手法を確立した。この手法を利用して、実用的な圧電材料である水晶振動子の原子ダイナミクスを計測することに成功している。27年度は、この手法を応用・発展させることで、更なる研究成果が創出されると期待できる。以上のことから、本研究課題は、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度に開発した計測技術を応用・発展することで、下記の研究課題に取り組む。 1. 水晶以外の圧電振動子を測定対象として、圧電振動に伴う格子歪みと原子変位のダイナミクスを明らかにする。計測された各種圧電体の原子変位ダイナミクスを比較することで、圧電特性と構造的特徴との関連を解明する。 2. 強誘電体の分極反転に伴う原子変位ダイナミクスの解明を目指す。LiTaO3などの典型強誘電体に加え、リラクサーなどの応用上重要な強誘電体を測定対象として、分極反転に伴う強誘電ドメインの核形成・成長ダイナミクスを原子運動の視点から解明する。
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Causes of Carryover |
消耗品費が予定より少額で済んだため次年度使用額が生じたが、その額は少額であり、計画はおおむね順調に進展している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の消耗品費に繰り越して使用する。
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