2014 Fiscal Year Research-status Report
内耳有毛細胞におけるRac分子種の機能解明と進行性難聴治療への応用
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26870498
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Research Institution | Kyoto Prefectural University of Medicine |
Principal Investigator |
中村 高志 京都府立医科大学, 医学部附属病院, 研究員 (80724179)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | Rac / 内耳有毛細胞 / 小脳顆粒細胞 / 失調性歩行 / 活性化 |
Outline of Annual Research Achievements |
アクチン細胞骨格の制御因子でありGTP結合タンパク質に属するRac分子種のうち、Rac1を内耳有毛細胞特異的にKOしたマウスと、Rac3を全身的にKOしたマウスを交配することにより、内耳有毛細胞特異的にRac1,3をDKOしたマウスを作成した。このマウスは生後数日で歩行を開始する段階から、明らかな失調性歩行を呈した。ABRにて聴覚を解析したところ、生後10週と十分に成熟した段階においても、同腹のコントロールと比較して有意な聴覚障害は認められなかった。また、同様のマウスを用いて共焦点レーザー顕微鏡や走査型電子顕微鏡により形態学的な解析も行った。しかしRac1,3DKOマウスの蝸牛感覚上皮に有意な異常所見は認めず、更に予想に反して平衡覚に寄与する前庭や三半規管膨大部ですら、異常は認められなかった。そこでRac分子種の内耳における発現(mRNAレベルではin situ hybridizationにて確認済み)と活性化を確認する目的で、Rac1のFRETバイオセンサー(活性化により共鳴エネルギー移動が生じることで、不活性化部分と異なる蛍光を発する分子)トランスジェニックマウスにおける内耳の解析を行った。するとやはり、Rac1は内耳有毛細胞に存在し、かつ有毛細胞不動毛で活性化していることが確認できた。 一方で、失調性歩行の原因解明のため小脳(Rac1を特異的にKOするために用いたAtoh1プロモーターは小脳顆粒細胞にも発現している)の組織を確認したところ、小脳顆粒細胞層の部分的な形成不全・欠損を認めた。 全身に広く発現するRac分子種は、内耳有毛細胞においても発現し活性化しているものの、其の発生や成熟、更に聴覚の獲得や維持には根幹的な働きを果たすわけではない。しかし、小脳顆粒細胞層の形成においてはRac1,3は必須であることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通りにRac1,3DKOマウスを作成し、明らかな歩行障害という表現型を確認した。そして今年度の目標としていた内耳の形態・機能解析と、内耳における活性化の確認については十分に達成された。その結果、Rac分子種は内耳有毛細胞の発生や機能獲得において根幹的な働きをしるわけではないが、一方で小脳顆粒細胞層の形成に関して重要な役割を果たしていることが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定では、今回作成したRac1,3DKOマウスの内耳有毛細胞に形態的・機能的な異常が確認できなければ、音響暴露などの刺激を加えることでコントロールとの差を確認することを目標としていた。実際に内耳には形態的にも機能的にも異常は認めなかったが、一方で小脳顆粒層の形成不全という新発見が見出された。更にその顆粒層形成不全は、過去の報告に類のない「小脳の前葉に限局した無形成」という特徴があった。小脳顆粒層形成の機序に関しては未だ未解明の部分が多い。今後は小脳顆粒層の外植片培養や小脳のマイクロアレイなどの手法を用いて、顆粒層形成不全の機序やそれに関わる下流因子について検討していく予定である。
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